国際枠組みとEU
遺伝子操作とは、植物、動物、人間を含む生物が持つDNA遺伝子を改変することを指します。遺伝子操作は主に、「遺伝子編集」という遺伝子がもともと持っている性質を改変する方法と「遺伝子組換え」という新しい性質を付け加える方法を用いて遺伝子を操作することを指しています。
遺伝子操作によって作成された遺伝子組換え生物(日本語では遺伝子編集された生物も遺伝子組換え生物と呼ばれることが多いため、以下では遺伝子組換え生物としています。)は、生物多様性条約(CBD: Convention on Biological Diversity1)の条約第19条3項により「バイオテクノロジーによって作り出された生きている改変生物 (本稿ではGMOとする2)であって生物多様性の保全および持続可能な利用に悪影響を及ぼす可能性のあるもの」と定められ、「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(カルタヘナ議定書、Cartagena Protocol on Biosafety)3」によってその取扱いが定められています。この議定書は現在では、170以上の国と地域が締約しており、EU諸国もそこに含まれています。
カルタヘナ議定書の規制対象である遺伝子組換え生物(LMO)は、カルタヘナ議定書第3条g項において「現代のバイオテクノロジーの利用によって得られる遺伝素材の新たな組み合わせを持つ生物」であると定義されています。ちなみに、他の国際協定や国際機関が取り扱っている人間用の医薬品としてのGMOは、本議定書の適用対象から除外されています
EUと遺伝子操作
EU諸国のほとんどの国では、研究目的の研究機関(閉鎖環境)による遺伝子操作は認められています。この場合には、各国独自の法律に従います。多くの国では実験を行う前にすべての実験を文書化する必要があり、その後大学や研究機関が独自に持つ特別委員会により承認されます。そして、多くの実験では、各国の規制団体や法律の許可も必要です。遺伝子操作を行う研究所は、ルール作りやその操作を管理する責任者(各研究所によって名称は異なる)を任命するなどして規制当局から承認を得る必要があり、少しでも実験に関わるスタッフは遺伝子組換え作物の使用に関する訓練の実施も必要です。遺伝子組換え生物(GMO)作製に伴う実験者へのリスクは、多くの国では各実験についてバイオセーフティーレベル(「病気を引き起こさない生物」から「生命を脅かす生物」)が設定され、各レベルで実行できる実験が異なります。遺伝子組換え生物(GMO)を取り扱う研究は、リスクや手続きの多くが似ているにもかかわらず、規制(研究者が従わなければならない指針、労働安全衛生法、(生物を含む)危険物の運送と管理に関わる法律、環境保護法など)が各省庁に分散している国が多くなっています。
EU全体として研究目的ではなく、閉鎖環境ではなく環境中に放出される遺伝子組換え生物(GMO)を作成するための遺伝子操作については、2001年より施工された遺伝子組換え生物の環境放出の規制の根拠となっている法律「GMO指令4」を元に、欧州食品安全機関(EFSA)が遺伝子組換え生物(GMO)の安全性を個別に評価しています。申請書は加盟国の管轄当局にまず提出され、管轄当局がEFSAに送付する形となるため、申請書の技術資料は、EFSAのガイダンスに従って作成しなければなりません。これには通常の環境中で栽培や流通が行われる、すべての遺伝子組換え生物、微生物、動物などが含まれます。その後、承認された生物について、各国ごとに栽培などを認めるかどうかが決められています。
以下では、植物、動物、人間を対象とした法令について内容を整理し、記載します。
植物(作物)
欧州委員会のなかで、遺伝子組換え作物に関する規制や政策は、健康・消費者保護総局(DG Sante)が中心に担っています。栽培や流通など環境中で利用される遺伝子組換え作物の安全性確認は、「2001/18/EC 遺伝子組換え体の意図的環境放出に関するEC指令」5に基づき、遺伝子組換え生物の安全性を確認しています。また食品として利用される遺伝子組換え作物に関しては、「遺伝子組換え食品飼料規則No. 1829/2003」6に基づいて申請と安全性審査を求めることもできます。安全性審査は、環境放出指令に基づく場合と、遺伝子組換え食品飼料規則に基づく場合で、手続きが若干異なります。環境放出指令の場合には、まず認可申請を行った国の評価機関で安全性審査を実施し、その結果に関して他の加盟国から反論があった場合のみ欧州食品安全機関(EFSA)で安全性審査を行いますが、遺伝子組換え食品飼料規則の場合には、すべての場合においてEFSAが安全性審査を実施します。いずれの場合も、基本的にはEFSAのもとで組織されたGMOパネルにおいて科学的観点から安全性評価が行われ、この評価に基づいて、欧州委員会が認可の判断を行います。また認可された遺伝子組換え作物や食品の認可期間は10年となっています(更新は可能)。
栽培後、食品や飼料になる場合には、EU規則 No 1829/2003 「遺伝子組換え食品及び飼料に関する規則」7及びNo 1830/ 2003 「遺伝子組換え食品等の表示・トレーサビリティ規則」8において、食品(加工食品については、 個々の原材料)について、遺伝子組換え農産物を0.9%以上含む全てのものに対し表示及びトレー サビリティが義務付けています。これらEU規則は、各加盟国(28か国)が個別に国内法令を制定しなくても、直接適用されます。しかし、表示方法については各国の法令が個別に異なっています。現在までに綿、トウモロコシ、油糧種子菜、大豆、サトウキビ、細菌バイオマス、酵母バイオマスなどが認可されました。しかし実際にはスペインとポルトガルの一部で遺伝子組換えトウモロコシが栽培されている程度で、栽培自体を承認していない国も多いです。一方で、遺伝子組換え作物の輸入はこれら以外のEU各国でも認められており、EUは、大豆から油を搾った後の搾りかすである大豆ミールや大豆そのものを年間3,000万トン程度輸入し、飼料として利用しています。そのかなりの割合は遺伝子組換え品種です。
動物
遺伝子組換え(GMO)動物は、生物学、ライフサイクル、または潜在的な環境への影響などさまざまなことが植物とは異なります。EFSAがまとめた文章によると9、現在までにEFSAは、欧州委員会からの要請に基づいて、動物の健康と福祉と環境安全の評価を含むGM動物由来の食品および飼料のリスク評価のための包括的なガイダンスを10を作成しています。また、GM動物の環境リスク評価(ERA)に関するガイダンス文書11も作成し、GMの魚、昆虫、哺乳類、鳥類を対象としています。しかし、GM動物、またはGM動物からの食糧や飼料は現在までに2017年に公開されたサケ遺伝子へのワクチンプラスミドの導入に関する評価しかありません12。ただし、EUでは遺伝子組換え作物を食べさせた家畜の肉については遺伝子組換えの表示をしなくてよく、多くの人は意識せずに食べています。
人間
2019年までに癌、失明、免疫疾患、神経疾患などを治療するための12種類以上の遺伝子治療薬が登場しました。EUにおける遺伝子治療はGene Therapy for Rare Disorders Europeという学会が、遺伝子治療薬を市場に投入する際に医薬品開発者が直面する製造、臨床、商業化の課題を克服することを目的として開催され、その内容をまとめています。EUでは、遺伝子治療は、遺伝子組換え生物(GMO)に関する規制やプロセスに該当し、「2001/18/EC 遺伝子組換え体の意図的環境放出に関するEC指令」[4]に基づき、遺伝子組換え生物の安全性が確認されています。ただし、出産を目的とした受精卵の遺伝子改変に関しては引き続き論争があり、臨床的、倫理社会的問題から法律で厳格に禁止している国が多くなっています。
生殖を目的とした生殖細胞系列の遺伝子改変規制状況としては、法的禁止国としてEU諸国(ドイツフランスイタリアなど)が入っている一方、イギリスでは2015年、ミトコンドリア病発症予防が目的の、卵子や受精卵での核移植が解禁されました。ちなみに、WADAは2003年に遺伝子組換え技術を使用した「遺伝子ドーピング」を禁止し、2018年から遺伝子編集関連製剤も遺伝子ドーピングに加えると決定しました。 遺伝子操作を行うとされている医薬品 遺伝子治療の臨床試験では、組換えウイルスベクターのような遺伝子組換え生物(GMO)が使用されることが多いです。このGMOについてはEU加盟国の中には、遺伝子治療薬の臨床試験を指令2001/18/EC[4]に基づく意図的放出とみなす国もあれば、指令2009/41/EC13に基づく含有使用とみなす国もあります。欧州議会として統一して法規制を敷いているものではないため、個別に対応が必要です。加盟国は3年ごとに指令に関する概要報告書を委員会に送り、委員会はこれらの報告書に基づいて要約を公表します。この要約の最新バージョンは、Eur-lexウェブサイトで入手できます。
- https://www.cbd.int/
- 一般的にはGMO: Genetically Modified Organismと呼ばれるが定義があいまいなため、 LMO: Living Modified Organism resulting from biotechnologyと記載されることもあります。
- 外務省日本語サイト https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/cartagena.html
- European Commission Food Safety https://ec.europa.eu/food/plants/genetically-modified-organisms/gmo-legislation_en
- https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32001L0018
- https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32003R1829&qid=1632825483900
- https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32003R1829 (PDF資料)
- https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=CELEX%3A32003R1830
- https://www.efsa.europa.eu/en/topics/topic/genetically-modified-animals
- https://www.efsa.europa.eu/en/supporting/pub/en-226
- https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/3200
- https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4689
- https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32009L0041
調査相談はこちら
概要調査、詳細調査、比較調査、個別の和訳、定期報告調査、年間コンサルなど
様々な調査に柔軟に対応可能でございます。
- ●●の詳細調査/定期報告調査
- ●●の他国(複数)における規制状況調査
- 細かな質問への適宜対応が可能な年間相談サービス
- 世界複数ヵ国における●●の比較調査 など
無料相談フォーム
無料メールマガジンの申込み|
希望の情報分野を選択可能
登録はこちらからメールアドレスを入力してお申込みください。
「登録」クリック後、購読したいメールマガジンの種類を選択いただけます。
★配信頻度|各メルマガについて月に1~2回
(不定期)
メルマガ|全般(全分野)
幅広い産業セクターに関係する注目規制動向の情報にご関心がある方はこちら。
メルマガ|化学物質
化学物質分野の注目規制動向の情報にご関心がある方はこちら。一般・工業用化学品や軍事用途の化学品、食品添加物や農薬、医薬品などが対象です。
メルマガ|環境
環境分野の注目規制動向の情報にご関心がある方はこちら。大気・水・土壌汚染のほか、地球温暖化やオゾン層破壊、騒音・振動・悪臭などに対する規制が対象です。
メルマガ|注目領域
注目領域分野の注目規制動向の情報にご関心がある方はこちら。製品認証、人工知能(AI)、自動運転・エコカー、PFAS・POPs・ナノマテリアル、DX・IoT・ICT、デューディリジェンスなどをいいます。
メルマガ|医薬品・食品・飲料
医薬品分野、食品・飲料分野の注目規制動向の情報にご関心がある方はこちら。医薬品分野には医療機器関連の規制動向も含まれます。
メルマガ|新領域
新領域分野の注目規制動向の情報にご関心がある方はこちら。当社でいう新領域分野とは、宇宙、海底・深海底、大深度地下などをいいます。