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中国で化学物質を製造したり、中国へ化学品を輸出したりする事業者にとって、避けて通れない制度の一つが「新化学物質環境管理登記」制度です。中国国内で流通実績のない化学物質を生産・輸入するには、事前に中国生態環境部の登記を受け、登記証を取得しなければなりません。いわば中国市場への「入口」での審査です。
この制度の根拠となる「新化学物質環境管理登記弁法」は、2026年10月に全面改正されました。新しい弁法(生態環境部令第40号)は公布の日から施行され、2021年01月01日から適用されていた旧弁法(生態環境部令第12号)は同時に廃止されています。登記の区分の名称や数量の基準、登記後の義務などが整理し直されたため、既存の社内手順や取引先への説明資料を見直す必要がある事業者も多いと考えられます。
本稿では、新しい弁法の条文に沿って、新化学物質環境管理登記制度の対象、3つの登記区分、申請と審査の流れ、登記後の義務を順に解説します。
1. 新化学物質環境管理登記制度の概要
1-1. 制度の目的と根拠
新しい弁法は、新化学物質の環境管理登記を規範化し、環境リスクを科学的に評価・管理して、生態環境と公衆の健康を保護することを目的としています(第1条)。根拠法令として「生態環境法典」などが挙げられています。登記は「源頭準入(入口での参入管理)」「リスク防止」「分類管理」を基本とし、残留性、生物蓄積性、環境・健康への危害性が大きい物質を重点的に管理する考え方が示されています(第5条)。
所管は国務院の生態環境主管部門(中国生態環境部)で、全国の登記業務を組織・実施します。技術的な評価には、化学物質環境リスク評価専門家委員会と、所属の化学物質環境管理技術機構が関わります。登記後の遵守状況は、設区の市級以上の地方の生態環境主管部門が監督します(第6条)。
(出典:中国生態環境部「新化学物質環境管理登記弁法」(生態環境部令第40号)/https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk02/202610/t20261027_1184708.html)
1-2. 「新化学物質」とは
弁法でいう「新化学物質」とは、「中国現有化学物質名録」に収載されていない化学物質をいいます(第3条)。名録には、2003年10月15日より前に中国国内で生産、販売、加工使用または輸入された化学物質と、2003年10月15日以降に新化学物質の環境管理に関する規定に基づいて収載された化学物質が含まれます。
注意したいのは、名録に収載済みの物質でも新化学物質として扱われる場合がある点です。名録で「新用途環境管理」の対象とされた物質を、認められた用途以外の工業用途に使う場合は、新化学物質と同様に登記が必要になります(第3条、第11条)。自社の製品に含まれる物質が名録に収載されているかどうかに加え、用途の制限が付いていないかも確認することが重要です。
1-3. 対象となる活動と対象外のもの
弁法は、中国国内で新化学物質を生産または輸入する場合に適用されます(第2条)。主な対象外は次のとおりです。
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区分 |
扱い |
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輸入後に海関特殊監督管理区域内で保管され、加工されずに全量輸出される新化学物質 |
対象外 |
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医薬品、獣医薬品、化粧品、食品、食品添加物、飼料、飼料添加物、肥料などの製品 |
対象外(ただし、他の工業用途に転用する場合や、これらの製品の原料・中間体は対象) |
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放射性物質 |
対象外 |
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農薬製品に用いる新化学物質 |
農薬管理の法令による(ただし、他の工業用途に転用する場合や、農薬の原料・中間体は対象) |
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通常の使用時に、含まれる新化学物質を意図的に放出するよう設計された物品 |
含まれる新化学物質が対象 |
(出典:中国生態環境部「新化学物質環境管理登記弁法」(生態環境部令第40号)/https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk02/202610/t20261027_1184708.html)
2. 3つの登記区分
2-1. 常規登記・簡易登記・形式登記
新しい弁法では、登記を「常規登記」「簡易登記」「形式登記」の3種類に分けています(第4条)。生産者・輸入者は、生産または輸入の前に、該当する区分の登記証を取得しなければなりません。区分は年間の生産量または輸入量で決まります(第10条)。
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区分 |
対象 |
主な提出資料 |
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常規登記 |
年間の生産量または輸入量が10トン以上 |
申請表、物理化学的性質・健康毒性・生態毒性の試験報告または資料、環境リスク評価報告書、承諾書(高危害化学物質は社会経済的便益の分析資料も) |
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簡易登記 |
年間1トン以上10トン未満 |
申請表、物理化学的性質と残留性・生物蓄積性・水生環境毒性の試験報告または資料、承諾書 |
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形式登記 |
年間1トン未満、または単量体・反応体の含有量が2%以下のポリマー、または低懸念ポリマー |
申請表、該当する場合はポリマーの要件を満たすことを証明する資料 |
いずれの区分でも、申請者がすでに把握している環境・健康への危害特性やリスクに関する情報は、あわせて提出する必要があります(第15条〜第17条)。旧弁法の下では常規登記・簡易登記に加えて「備案」の手続がありましたが、新しい弁法の本文には「備案」の区分はなく、3つの登記区分に整理されています。
(出典:中国生態環境部「新化学物質環境管理登記弁法」(生態環境部令第40号)/https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk02/202610/t20261027_1184708.html)
(出典:中国生態環境部「『新化学物質環境管理登記ガイドライン』改訂発布に関する記者問答」/https://www.mee.gov.cn/ywgz/gtfwyhxpgl/hxphjgl/zcfgybzgf/202011/t20201120_808952.shtml)
2-2. 試験データに関する要件
常規登記と簡易登記の生態毒性の試験データには、中国国内の供試生物を用いたデータを含める必要があります(第15条、第16条)。また、健康毒性と生態毒性の試験を行う国内の試験機関は、優良試験所基準(GLP)に適合していなければなりません。海外の試験機関によるデータも、国際的に通用するGLPの要求に適合している必要があります(第14条)。海外で取得した試験データだけでは足りない場合があるため、早めに必要なデータを洗い出しておくことが重要です。
なお、分子構造や用途、試験データが近い複数の物質を同じ申請者がまとめて申請したり、複数の申請者が同じ物質を共同で申請したりすることもできます。この場合の登記量は、各物質または各申請者の申請量の合計となります(第18条)。
2-3. 「高危害化学物質」の扱い
弁法は、残留性・生物蓄積性・毒性を同時に持つ物質、高い残留性と高い生物蓄積性を同時に持つ物質、またはこれらと同等の危害性を持つ物質を「高危害化学物質」と定義しています(第46条)。高危害化学物質の常規登記では、社会経済的便益の分析資料が必要となり、申請する活動の必要性も審査されます(第15条、第20条、第23条)。
3. 申請と審査の流れ
3-1. 申請者
申請者は、中国国内で法に基づき登記され、独立して法的責任を負うことができる企業・事業単位で、新化学物質を生産または輸入するものとされています(第11条)。中国国外の企業が自ら申請者となる規定は、新しい弁法の本文には置かれていません。日本の製造者が中国へ新化学物質を含む製品を輸出する場合は、中国側の輸入者が申請者となるのか、手続をどのように分担するのかを、事前に取引先と確認しておく必要があります。
申請者は提出資料の真実性、完全性、正確性、合法性に責任を負います(第12条)。物質の名称など識別情報について商業秘密としての保護を求めることもでき、その保護期間は初回の登記日から最長5年です(第13条)。
3-2. 審査の期限
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段階 |
期限 |
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受理・不受理・補正の告知 |
その場または5営業日以内(第19条) |
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技術評審 |
常規登記は60日以内、簡易登記・形式登記は30日以内。補充資料の準備期間は含まない(第28条) |
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登記の可否の決定 |
受理日から20営業日以内。10営業日の延長が可能。技術評審の期間は含まない(第28条) |
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公示(常規登記・簡易登記) |
決定前に3営業日以上(第27条) |
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登記情報の公開 |
登記の決定後20営業日以内(第31条) |
技術評審で資料の補充を求められ、6か月以内に補充しない場合は登記されません(第26条)。虚偽の資料を提出するなど欺瞞的な手段を用いた場合も同様です。
(出典:中国生態環境部「新化学物質環境管理登記弁法」(生態環境部令第40号)/https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk02/202610/t20261027_1184708.html)
4. 登記後の義務
4-1. 情報伝達と記録の保存
登記を受けた後も、事業者にはさまざまな義務があります。生産者・輸入者は、下流の使用者に対して、登記証番号、申請用途、危害特性とリスク管理措置、管理要件を伝えなければなりません(第39条)。また、活動の時期、数量、用途、リスク管理措置と管理要件の履行状況を記録し、常規登記と簡易登記は10年以上、形式登記は3年以上保存する必要があります(第40条)。常規登記の物質の生産者は、リスク管理措置と管理要件の履行状況を、ウェブサイトなどで公開しなければなりません(第41条)。
4-2. 初回活動報告と年次報告
初めて生産した日、または初めて輸入して加工使用者に引き渡した日から60日以内に、初回活動報告を行う必要があります。常規登記証に年次報告の要件が記載されている場合は、登記の翌年から毎年04月30日までに、前年の生産・輸入の実績、環境への排出状況、リスク管理措置などの履行状況を報告します(第42条)。新たな危害やリスクを把握した場合は速やかに報告し、リスクが高まるおそれがあるときは措置を講じなければなりません(第43条)。
4-3. 登記内容の変更と再申請
常規登記証を取得した物質は、名録に収載されるまでの間、生産量・輸入量が申請量を超える見込みのとき、活動の種類を輸入から生産へ変えるとき、用途やリスク管理措置を変えるときなどに、再申請が必要です(第32条)。それ以外の記載事項の変更は変更申請で対応します。簡易登記や形式登記で数量が増え、上位の区分の登記証が必要になる場合は、新たに登記証を申請します(第33条)。
4-4. 「中国現有化学物質名録」への収載
常規登記を受けた物質は、初回の登記から5年が経過すると、中国生態環境部により「中国現有化学物質名録」に収載されます(第45条)。名録に収載された物質は新化学物質に当たらなくなるため(第3条)、収載後は他の事業者も新化学物質としての登記なしで生産・輸入できることになります。ただし、高危害化学物質や、残留性・生物蓄積性・毒性のうち2つを併せ持つ物質は、名録への収載後も新用途環境管理の対象となります。高危害化学物質は用途を変更する場合や登記証の保有者以外が工業用途に使う場合に、2つを併せ持つ物質は名録で認められた用途以外の工業用途に使う場合に、生産または輸入の前に新用途環境管理登記が必要です(第34条)。一方、簡易登記と形式登記の物質は名録に収載されないため(第45条)、登記証の取得者以外が生産・輸入する場合は、その事業者が自ら登記を受ける必要があります。
(出典:中国生態環境部「新化学物質環境管理登記弁法」(生態環境部令第40号)/https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk02/202610/t20261027_1184708.html)
まとめ
中国の新化学物質環境管理登記制度は、「中国現有化学物質名録」に収載されていない化学物質を中国で生産・輸入する前に、環境リスクの観点から審査を受けるための制度です。2026年10月の改正により、登記は年間の数量などに応じた常規登記・簡易登記・形式登記の3区分に整理されました。
事業者がまず確認すべき点は、次の3つです。
・自社の製品に含まれる物質が名録に収載されているか、新用途環境管理の制限が付いていないか
・年間の輸入量や生産量がどの登記区分に当たるか、中国側の輸入者と申請の分担をどうするか
・登記後の情報伝達、記録の保存、初回活動報告、年次報告などの義務に対応できる体制があるか
新しい弁法は公布の日から施行されています。旧弁法の下で手続を行ってきた事業者も、条文を確認し、自社の対応を改めて点検することが求められます。
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