2026年7月31日、江蘇省第十四期人民代表大会常務委員会第23次会議は、「江蘇省人民代表大会常務委員会の『江蘇省生態環境保護条例』等23件の地方性法規の改正に関する決定」を可決しました。この決定は、江蘇省の環境関連の地方性法規を一括して改正するもので、決定の内容は2026年8月11日に江蘇省人民代表大会のウェブサイトで公開されました。改正の主眼は、国家レベルで整備された生態環境法典への準拠にあり、各条例の立法根拠の書き換え、「環境」から「生態環境」への用語の統一、「環境保護主管部門」から「生態環境主管部門」への部門名称の置き換えが横断的に行われています。もっとも、形式的な整理にとどまらず、排出自動監視設備の設置・連網、入河排汚口の手続、沿江・沿海地域における立地規制、固体廃棄物の省をまたぐ移送の情報報告、放射線事故の報告期限など、事業者の義務に直接関わる条文も改められています。江蘇省は製造業の集積地であり、日系企業の生産拠点も多いことから、省内に工場や物流拠点を持つ事業者は、自社に適用される条例の改正点を確認する必要があります。なお、掲載された範囲では決定の施行日は確認できておらず、公布の公告番号も示されていません。
決定の位置づけ
今回の措置は、個別の条例を単独で改正するのではなく、環境・生態分野の地方性法規23件をまとめて改正する「一括改正」の形式が採られています。中国では、上位の法律が制定・改正された際に、下位の地方性法規の整合を一括して図る手法が用いられており、本決定もその一例と位置づけられます。決定は各条例について「一、」「二、」と順に改正箇所を列挙する構成で、条文の削除・追加・文言の置換が示されています。
改正の共通する方向性
- 法的根拠の更新:各条例の冒頭で生態環境法典を引用する形に改められています。
- 用語の統一:「環境」を「生態環境」に、「環境保護」を「生態環境保護」に置き換える整理が全体に及んでいます。
- 所管部門の名称変更:「環境保護主管部門」が「生態環境主管部門」に改められています。届出・報告の相手方の名称が変わるため、社内規程や様式の記載を見直す必要があります。
- 監視制度の強化:排出自動監視設備の設置・使用・維持と、行政の監視設備との連網を求める規定が複数の条例で整えられています。
- 罰則の整理:違反行為の類型が追加されるとともに、罰則の範囲が整理されています。
改正の対象となった条例
決定が改正の対象とした地方性法規は23件です。掲載内容から確認できたものは次のとおりです。
- 江蘇省生態環境保護条例
- 江蘇省生物多様性保護条例
- 江蘇省水汚染防止条例
- 江蘇省長江水汚染防止条例
- 江蘇省海洋環境保護条例
- 江蘇省大気汚染防止条例
- 江蘇省自動車および非道路移動機械排気汚染防止条例
- 江蘇省土壌汚染防止条例
- 江蘇省固体廃棄物汚染環境防止条例
- 江蘇省放射線汚染防止条例
- 江蘇省都市市容および環境衛生管理条例
事業者に関わる主な改正内容
排出自動監視設備の設置と連網
江蘇省生態環境保護条例では、「排汚許可重点管理を実施する排汚単位は、法に基づき汚染物排出自動監視設備を設置・使用・維持し、監視および自動モニタリングを行い、生態環境主管部門の監視設備と連網しなければならない」とされています。江蘇省大気汚染防止条例にも、大気汚染物の排出自動監視設備について同趣旨の規定が置かれています。排汚許可の重点管理に区分されている事業所は、設備の設置だけでなく、稼働状態の維持と行政システムへの接続が義務の内容に含まれる点に注意が必要です。
入河排汚口の設置・変更
江蘇省水汚染防止条例では、「入河排汚口を新設・改設・拡大する場合、入河排汚口の設置を禁止する法律・法規の規定に反してはならず、法に基づき関連手続を履行しなければならない」と定められています。江蘇省長江水汚染防止条例にも、入河排汚口の新設・改設・拡大について法定手続の履行を求める規定があります。工場の増設や排水経路の変更を計画している場合は、着手前の手続の要否を確認することになります。
沿江・沿海地域における立地規制
江蘇省長江水汚染防止条例は、沿江地域における「各種の汚染が深刻なプロジェクト」の建設を禁止しています。また江蘇省海洋環境保護条例は、沿海の陸域において、国の産業政策に適合しない化学パルプ・製紙、化学工業、捺染、製革、電気めっき、醸造、石油精製などのプロジェクトの建設を禁止しています。新規投資や工場移転の立地選定に直接影響する規定であり、対象業種に該当する事業者は計画段階での確認が欠かせません。
高汚染燃料の禁燃区
江蘇省大気汚染防止条例では、高汚染燃料の禁燃区内において、高汚染燃料の販売および燃焼が禁止され、あわせて高汚染燃料を用いる設備の新設・拡張も禁止されています。自家用ボイラーや熱源設備を保有する事業所は、所在地が禁燃区に指定されているかどうかと、使用燃料の種別を確認する必要があります。
地下貯蔵タンクの点検
江蘇省土壌汚染防止条例では、送油管、給油所、地下貯蔵タンクなどの施設について、腐食・漏えいの検査を定期的に実施していない場合に、生態環境主管部門が是正を命じることとされています。地下タンクを保有する事業所では、定期検査の記録が是正命令の判断材料となります。
固体廃棄物の省をまたぐ移送と動力電池
江蘇省固体廃棄物汚染環境防止条例では、省をまたぐ移送に関して、従来の備案(届出)から関係情報の報送へと制度が改められ、「法に基づき関係情報を報送しなかった」場合が違反として整理されています。あわせて、新エネルギー自動車の生産企業および動力電池の企業が回収・利用の責任を履行すべきことが定められました。電動車関連のサプライチェーンに関わる事業者は、使用済み電池の回収・利用に関する責任の所在を確認することが求められます。
放射性同位元素・放射線装置
江蘇省放射線汚染防止条例では、放射性同位元素および放射線装置を生産・販売・使用する事業者は、法に基づき放射線安全許可証の交付を申請しなければならないとされています。また、放射線事故が発生した場合には、事故発生後1時間以内に公安機関、衛生健康主管部門および生態環境主管部門へ報告することが求められます。非破壊検査装置や分析機器を使用する事業所も対象となり得るため、許可の保有状況と緊急時の連絡手順の整備を確認する必要があります。
誰が、何を、どうすればよいのか
- 排汚許可の重点管理事業所:自動監視設備の設置・維持と、生態環境主管部門の監視設備との連網状態を確認する。
- 排水を河川に放流する事業所:入河排汚口の新設・改設・拡大を予定している場合、着手前に法定手続の要否を確認する。
- 沿江・沿海地域で新規投資を検討する事業者:対象業種の立地禁止に該当しないかを、計画の初期段階で確認する。
- ボイラー等の燃焼設備を持つ事業所:所在地の禁燃区指定と使用燃料の種別を確認する。
- 地下タンク・送油管を持つ事業所:腐食・漏えいの定期検査の実施状況と記録を点検する。
- 固体廃棄物を省外へ移送する事業者・電池関連事業者:情報報送の手順と、回収・利用責任の範囲を確認する。
- 放射線装置を使用する事業所:許可証の有効性と、1時間以内の事故報告体制を確認する。
施行時期に関する留意点
本決定は2026年7月31日に可決されましたが、ウェブサイトへの掲載は2026年8月11日であり、掲載日と可決日は異なります。中国の地方性法規では、公布の公告に記載された日付や決定本文の末尾に置かれる施行の定めが正式な基準となるため、日付を扱う際には区別が必要です。今回参照した掲載範囲では、決定の施行日および公布の公告番号は確認できていません。適用開始の時期については、江蘇省人民代表大会常務委員会の公告および改正後の各条例の本文で確認することが求められます。
参考情報
江蘇省人民代表大会ウェブサイト
https://www.jsrd.gov.cn/qwfb/sjfg/202608/t20260811_1350870.shtml



