禁止要件、段階的廃止要件、職場化学品保護プログラム、川下通知、記録保持
2023年10月31日、米国連邦官報にて、有害物質規制法(TSCA)のもとでのリスク評価結果に基づき、トリクロロエチレン(TCE)が人体に及ぼす不合理なリスクに対処することを目的とした規則の草案が公示されました。意見募集の期間は11月30日までとなっています。
概要・背景
■ 規則案は連邦規則集CFRの第40篇(40 CFR)の「Part 751 TSCA第6条のもとでの特定化学物質および混合物の規制」を改正するもので、主にTCEを規制するSubpart Dを追加する内容となっている。
■ 禁止要件、段階的廃止要件、職場化学品保護プログラム、川下通知、記録保持など、注目すべき各種要件が提案されている。
目次
Subpart D トリクロロエチレン
751.301 総則
751.303 定義
751.305 製造、加工、商業的流通および処分の禁止
751.307 HFC–134a製造におけるTCE使用の段階的廃止
751.309 ブースターロケットノズルに関する蒸気脱脂におけるTCE使用の段階的廃止
751.311 職場化学品保護プログラム
751.313 川下通知
751.315 記録保持要件
751.317 免除
注目すべき内容
禁止要件の要点整理(751.305)
根拠 | 禁止適用日 | 禁止行為 | 詳細 |
(b)(1) | 規則公布3ヵ月後 | TCEの製造・輸入 | (b)(4)~(13)に定める場合を除く |
(b)(2) | 規則公布6ヵ月後 | TCEの加工・商業的流通(TCE含有製品を含む) | (b)(4)~(13)に定める場合を除く |
(b)(3) | 規則公布9ヵ月後 | TCEの産業用途、商業用途での使用(TCE含有製品を含む) | (b)(4)~(13)に定める場合を除く |
(b)(4) | 規則公布6ヵ月後 | オープントップ型及びクローズドループ型脱脂装置におけるバッチ式蒸気脱脂のための産業用途、商業用途のためのTCEの製造 | (b)(9)および(11)に規定される用途を除く |
(b)(5) | 規則公布9ヵ月後 | オープントップ型及びクローズドループ型脱脂装置におけるバッチ式蒸気脱脂のための産業用途、商業用途のためのTCEの加工 | (b)(9)および(11)に規定される用途を除く |
(b)(6) | 規則公布1年後 | オープントップ型及びクローズドループ型脱脂装置におけるバッチ式蒸気脱脂のための産業用途、商業用途での使用 | (b)(9)および(11)に規定される用途を除く |
(b)(7) | 規則公布18ヵ月後 |
産業用途、商業用途での使用のためにTCEを反応剤や中間体としてTCEを加工するため、ならびに、電池用セパレータ製造、ポリマー繊維紡糸、フルオロエラストマー製造及びアルカンターラ製造に使用される加工助剤;カプロラクタム製造に使用される抽出溶媒;β-シクロデキストリン製造に使用される沈殿剤としてTCEを加工するためのTCEの製造・輸入 |
(b)(10)および(12)に規定される用途を除く |
(b)(8) | 規則公布2年後 | 反応剤/中間体としてTCEの加工、ならびに産業用電池製造におけるプロセス溶媒、ポリマー繊維紡糸、フルオロエラストマー製造及びアルカンターラ製造に使用されるプロセス溶媒、カプロラクタム製造に使用される抽出溶媒、β-シクロデキストリン製造に使用される沈殿剤における処理助剤としてTCEの加工 | (b)(10)および(12)に規定される用途を除く |
(b)(9) | 規則公布5年後 | 連邦政府機関及びその請負業者のためのロケット・ブースター・ノズルの製造に最終的に使用するためのレーヨン織物精練用のクローズループバッチ式蒸気脱脂における溶媒としての TCEの産業用途、商業用途での使用、並びにそのような使用のためのTCEの製造・輸入、 加工及び商業的流通 | 当該生産者がロケット・ブースター・ノズルの製造において TCEに代わるものを使用して最終的な発射前試験が完了したことを証明するセクション751.309の要求する記録を入手し維持しない場合 |
(b)(10) | 規則公布8年6ヶ月後 | 1,1,1,2-テトラフルロエタン(HFC-134a:CAS No. 811-97-2)としても知られるハイドロフルオロカーボン 134-a の製造・輸入、 加工及び商業的流通、および製造のための中間体としてのTCEの加工 | ー |
(b)(11) | 規則公布10年後 | 連邦政府機関及びその請負業者のためのロケット・ブースター・ノズルの製造に最終的に使用するためのレーヨン織物精練用のクローズループバッチ式蒸気脱脂における溶媒としての TCEの産業用途、商業用途での使用、並びにそのような使用のためのTCEの製造・輸入、 加工及び商業的流通 | ー |
(b)(12) | 規則公布10年後 | 電池用セパレータ製造のための加工助剤としてのTCEの産業用途、商業用途での使用、並びにそのような使用のためのTCEの製造・輸入、 加工及び商業的流通 | ー |
(b)(13) | 規則公布10年後 | 国防総省の海軍艦艇及びそのシステム、並びに当該艦艇及びシス テムの保守、製造、維持において、海軍電子システム及び機器用のポッティング化合物としての TCE の産業用途、商業用途での使用を禁止 |
高真空および超高真空システム用のシーリングコンパウンド |
(b)(14) | 規則公布50年後 | 必須実験室用途のためのTCEの産業用途、商業用途での使用、並びにそのような用途のための製造・輸入、 加工及び商業的流通 | ー |
(b)(15) | 規則公布9ヵ月後 | TCEを産業用前処理施設、産業用処理施設、又は公有処理施設へ廃棄 | (b)(16)に規定される場合を除く |
(b)(16) | 規則公布50年後 | TCEの産業用前処理施設、産業用処理施設又は公有処理施設への廃棄で、751.317(b)(2)に記載されるTCE汚染水及び地下水の浄化プロジェクトの目的のもの | ー |
(b)(17) | 規則公布7年後 | 751.317 条(c)(3)に記載されるNASA及びその請負業者による有人ロケットエンジン洗浄に必要な閉ループ蒸気脱脂の溶媒としてのTCEの工業的及び商業的使用、並びにそのような使用のためのTCEの製造・輸入、 加工及び商業的流通 | ー |
段階的廃止要件の要点整理(751.307)
根拠 | 段階的廃止適用日 | 段階的廃止の内容 | 対象者 |
(b)(1) | 2年6か月後 | ベースラインの75%を超える年間加工量でTCEの中間体としての加工 | TCE を中間体として加工するHFC-134aの各製造者 |
(b)(2) | 4年6ヶ月後 | ベースラインの50%を超える年間加工量でTCEの中間体としての加工 | TCE を中間体として加工するHFC-134aの各製造者 |
(b)(3) | 6年6ヶ月後 | ベースラインの25%を超える年間加工量でTCEの中間体としての加工 | TCE を中間体として加工するHFC-134aの各製造者 |
(b)(4) | 8年6ヶ月後 | TCEの中間体としての加工 |
■ 「ベースライン」は、規則公布の6か月後までに、中間体としてTCEを加工するHFC-134aの各製造者は、中間体として処理される TCE のベースライン年間量を設定する必要がある。算出方法は751.307(a)を参照。
参考情報
有害物質規制法(TSCA)とは?
米国の「有害物質規制法」、通称「TSCA」は、化学物質の管理・規制に関する米国の国レベルの基本的な法令の一つです。日本の化審法、EUのREACH規則と並べて、あるいは比較して言及されたりもします。 合衆国法典では第15編、第53章に収載されており、全部で6つの大項目から構成されています。このうち、日本の事業者が関心が高く、よく相談が持ち込まれる大項目は、「有害物質の管理」、「複合木材製品のホルムアルデヒド基準」です。
目次
SUBCHAPTER I 有害物質の管理 SUBCHAPTER II アスベスト有害性緊急対応 SUBCHAPTER III 屋内ラドン削減 SUBCHAPTER IV 鉛ばく露低減 SUBCHAPTER V 健康的な高いパフォーマンスの学校 SUBCHAPTER VI 複合木材製品のホルムアルデヒド基準
注目される制度
TSCAのもとでは様々な規制が敷かれていますが、事業者からの相談・問い合わせが多く、注目度が高い制度には次のものが例として挙げられます。
新規化学物質の製造前届出制度
■ 第5条(§2604)(a)(1)に基づき、新規化学物質の製造・輸入・加工については、90日前までにEPAへの届出が必要
化学物質の試験制度
■ 第4条(§2603)に基づき、EPAが人の健康や環境へ不当なリスクをもたらすと判断した場合には、化学物質や混合物の製造、商業流通、加工、使用、廃棄、またはそのような活動の組み合わせに関連して、関連事業者に試験の実施を要求することができる。関連規則に基づき、規則や同意命令などの形で発出される。
重要新規利用規則(SNUR)
■ 第5条(§2604)(a)(2)に基づき、化学物質の使用が、通知が必要とされる重要新規利用(Significant New Use)であるかどうかをEPAが判断し、必要に応じて規則を設ける。特定されたものについて、製造者・輸入者や加工業者は、当該新規利用を開始する90日前までに関連規則に基づいた通知(SNUN)が必要とされる。
化学物質のリスク評価制度に基づく個別の規制
■ 第6条(§2605)に基づき、EPAが化学物質または混合物の製造、加工、商業流通、使用、廃棄、またはそのような活動の組み合わせが、人の健康や環境へ不当なリスクをもたらすと判断した場合には、規制を定める規則の検討を行う。
既存化学物質の管理制度
■ 第8条(§2607)に基づく記録保持・報告要件は、インベントリー制度としても知られている。EPAが化学物質についての情報をインベントリーとして管理するために、事業者には情報の提出や更新が求められている。
輸出入規制
■ 輸出(§2611)や輸入(§2612)についても規制が敷かれているが、特に注目されるのは、輸入時における「TSCA証明」である。詳細は規則で規定されているが、輸入化学物質が TSCA に準拠していることを証明する方法(positive certification)と、TSCAの適用外であることを証明する方法(negative certification)が存在する。
複合木材製品規制
■ 米国内で販売、供給、販売促進、製造、輸入される複合木材製品は、TSCA Title VI適合と表示されなければならない。これらの製品には、広葉樹合板、中密度繊維板、パーティクルボード、およびこれらの製品を含む家庭用品やその他の完成品(finished goods)が含まれる。自主的合意基準、第三者認証制度など要件遵守保証のための制度が導入されている。
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