PFHxAおよびその塩、関連物質の上市・使用規制
2024年09月20日、欧州官報にてEUの化学物質の登録、評価、認可、制限等を規制するREACH規則の附属書17を改正し、PFHxAおよびその塩、関連物質に係わる制限エントリー(Entry 79)を追加する改正規則が公布されました。
■ PFHxA:Undecafluorohexanoic acid
注目すべき内容
対象物質
■ 対象物質は、PFHxAおよびその塩、PFHxA関連物質で、以下のいずれか
(a) 直鎖または分岐のペルフルオロペンチル基(化学式C5F11-)が、構造要素の一つとして、別の炭素原子に直接結合しているもの |
(b) 直鎖または分岐のペルフルオロヘキシル基(化学式C6F13-)を有するもの |
対象外
■ (a) C6F14
■ (b) C6F13-C(=O)OH, C6F13-C(=O)O-X′ または C6F13-CF2-X′(X’= いずれかの官能基、塩を含む)
■ (c) 末端以外の炭素原子の酸素原子に直接結合したペルフルオロアルキル基C6F13-を有する物質
制限内容
いつから | 対象 | 制限 | 根拠 | 適用除外 | 根拠 |
2026年10月10日 | (a) 一般公衆向けの衣類および関連装飾品用の繊維、皮革、毛皮、皮革製品 (b) 一般公衆向けの履物 (c) 食品と接触する材料として使用される紙および段ボール(規則(EC)No 1935/2004の適用範囲内) (d) 一般公衆向けの混合物 |
均質材料で測定された以下の濃度で、上市または使用を禁止 ■ PFHxAおよびその塩の合計が25ppb以上、または、 ■ PFHxA関連物質の合計が1000ppb以上 |
1. | 段落1および2は、以下については非適用 3. (a) 規則(EU) 2016/425 附属書1のリスクカテゴリー3 (a)、(c)~(f)、(h)、(l)の各ポイントの範囲内のリスクからユーザーを保護することを目的とした個人用保護具 (b) 規則(EU) 2017/745の適用範囲内の機器※1 (c) 規則(EU) 2017/746 の適用範囲内の機器※2 (d) 建築用繊維製品として使用される繊維製品 6. 規則(EU)2019/1021の附属書1で禁止されている、硫黄原子に直接結合したパーフルオロアルキル基C6F13を有する物質 7. 2026年10月10日より前に上市された成形品および混合物 段落2の非適用 |
3. 6. 7. |
2027年10月10日 | 段落1で言及される一般公衆向けの衣類および関連装飾品用以外の、繊維、皮革、毛皮、皮革製品 | 均質材料で測定された以下の濃度で、上市または使用を禁止 ■ PFHxAおよびその塩の合計が25ppb以上、または、 ■ PFHxA関連物質の合計が1000ppb以上 |
2. | ||
2026年04月10日 | (a) 消火用泡剤および消火用泡剤の訓練および試験用濃縮剤 (b) 公共消防サービス用の消火用泡剤および消火用泡濃縮物剤 |
以下の濃度で、上市または使用を禁止 ■ PFHxAおよびその塩の合計が25ppb以上、または、 ■ PFHxA関連物質の合計が1000ppb以上 |
4. | 以下については非適用 4. ■消火システムの機能試験(全て放出の封じ込めが前提)※(a)関連 ■指令 2012/18/EU の対象となる施設における産業火災に介入し、サービスが泡および設備をその目的のみに使用する場合 ※(b)関連 6. 規則(EU)2019/1021の附属書1で禁止されている、硫黄原子に直接結合したパーフルオロアルキル基C6F13を有する物質 |
4. 6. |
2029年10月10日 |
航空(民間空港を含む)用の消火用泡剤および消火用泡濃縮剤 |
以下の濃度で、上市または使用を禁止 ■ PFHxAおよびその塩の合計が25ppb以上、または、 ■ PFHxA関連物質の合計が1000ppb以上 |
5. | 6. 規則(EU)2019/1021の附属書1で禁止されている、硫黄原子に直接結合したパーフルオロアルキル基C6F13を有する物質 | 6. |
「PFHxA関連物質」とは、分子構造に基づき、PFHxAに分解または変化する可能性があるとみなされる物質をいう。 |
※1:医療機器 ※2:体外診断用医療機器 ※3:規則(EU)2019/1021=POPs規則
概要・背景
■ PFHxAそれ自体はEUで登録されておらず、使用もされていないが、PFHxAおよびそのアンモニウム塩に関連するいくつかの物質は、年間1トンから100トン以上のトン数帯で登録されている。それらは、多くの分野で広く使用されており、食品接触材料として使用される紙および段ボール、繊維、消火用泡剤などでは大量に使用されている。
■ 2019年12月20日、ドイツより制限提案の一式文書が提出され、2021年06月03日、欧州化学品庁(ECHA)のリスク評価委員会(RAC)が意見書を採択していた。その後、2021年12月08日、社会経済分析委員会(SEAC)の意見書が採択され、2022年05月10日、両意見書は欧州委員会へ提出された。
■ 当該物質は「極難分解性(vP)」の基準を大幅に上回り、水生環境中で移動し、人の健康および環境に潜在的な悪影響を及ぼす可能性があると評されている。
参考情報
■ Commission Regulation (EU) 2024/2462
REACH規則の制限とは?
REACH規則の規制の中で最も厳しい規制内容がこの「制限」に係わる内容である。物質の製造、使用または上市から生じるヒト健康または環境に対する許容できないリスクがあり、様々な用途へのリスク評価と社会経済便益の評価に基づいて、EU全体で対処する必要があると判断された物質を規制する制度となっている。この制限対象物質はREACH規則の附属書17に収載され、別途欧州化学品庁(ECHA)がウェブサイト上でも管理している。
制限対象物質の更新
新たに制限対象物質が追加されたり、更新されたりする際には、後の規制化プロセスで見るように、改正規則として欧州官報で公布される。特定され、リストに明記される情報には各物質または物質群ごとに、対象となる物質(群)の範囲詳細と制限条件が含まれる。制限条件は、一般的な規制条件のほか、必要に応じて特定用途または特定状況下での規制条件、猶予期間を設ける項目、適用除外項目、その制限の項目に関係する定義などの情報が含まれる。
対象となる物質(群)の詳細 | 制限条件 |
(No.) (対象) EC No.~ CAS No.~ |
(主となる制限条件) (特定用途または特定状況下での規制条件) (猶予期間を設ける項目) (適用除外項目) (その制限の項目に関係する定義) |
制限対象物質リストのコンプライアンス対応
制限条件の遵守
附属書XVIIに収載されている物質については、同箇所に記載されている制限条件を遵守しなければならない(第67条)。注意が必要なのは、それが物質単体か、混合物か、それとも成形品も対象なのかはそれぞれの条件で異なるため、一つ一つ個別に確認しなければならないことである。加えて、その制限の対象となる行為も、製造なのか、使用なのか、上市なのか、あるいは情報伝達やラベル表示、訓練・教育が必要なのか、などこれも個別に異なっているため、やはりその物質(群)ごとに個別に制限条件を確認しなければならない。個別の制限条件ごとに、細かく遵守期限が決められていることが多い点にも注意しておきたい。
安全データシート(SDS)の更新と提供
制限が課された場合には、その物質およびその物質を含む混合物の受領者(過去12ヶ月以内)に、更新したSDSを遅滞なく、無償で提供しなければならない(第31条)。
SDSが必要とされない物質・混合物の受領者への情報伝達
SDSが必要とされない物質および混合物の受領者に対しても、制限内容が追加・更新された後、制限の詳細情報を遅滞なく、無償で提供しなければならない。(第32条)。
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