法令の情報時期:2024年3月 U.S.C.確認 | ページ作成時期:2024年3月 |
目的

同法は、スーパーファンド改正・再承認法(Superfund Amendments and Reauthorization Act、SARA)のIII章として、地域社会対して有害化学物質の曝露という緊急事態に備えるための通知や報告が行われるために制定された。
この法律により、特定の有害化学物質を扱う事業体は、その保管、使用、放出について、連邦政府や地方自治体に報告することが義務付けられ、その情報の多くは開示される。
概要

本法に基づいて、有毒化学物質排出目録(Toxics Release Inventory、TRI)という有毒化学物質を集めたデータベースが作成されている。
本法の対象物質である「極めて有害な物質」の閾値を超える量を、保管または使用などする「対象施設」となる。
「対象施設」の所有者もしくは運営者は、「緊急時対応計画書」、「フォローアップも含む緊急時通知」、「物質安全データシート」と「各有害化学物質のリスト」、「緊急時及び有害化学物質インベントリフォーム」、「有毒化学物質放出フォーム」を、提出する義務がある。また、これらは一般公衆に公開されるものである。
「対象施設」の所有者もしくは運営者は、通知義務もしくは報告義務を怠ると、内容に従って民事罰もしくは刑事罰が科せられる。
注目定義
■ 「長官」(Administrator)
「長官」(Administrator)とは、環境保護庁長官をいう。(11049条(1)) |
■ 「人物」(Person)
「人物」(Person)とは、個人または個人を含むパートナーシップ、法人、および団体を含む。(11049条(7)) |
■ 「環境」(Environment)
「環境」(Environment)とは、水、空気、土地、そして水、空気、土地とすべての生物との間に存在する相互関係をいう。(11049条(2)) |
■ 「極めて有害な物質」(Extremely hazardous substance)
「極めて有害な物質」(Extremely hazardous substance)とは、本法11002条(a)(2)に記載されたリストに含まれる物質をいう。(11049条(3)) |
■ 「施設」(Facility)
「施設」(Facility)とは、単一の敷地内、または隣接する敷地内に所在し、同一人物(または当該人物を支配し、支配され、もしくは当該人物と共通の支配下にある人物)によって所有または運営されている、すべての建物、設備、構造物、およびその他の固定物をいう。本法11004条では、自動車、鉄道車両、航空機を含む。(11049条(4)) |
■ 「有害化学物質」(Hazardous chemical)
「有害化学物質」(Hazardous chemical)とは、本法11021条(e)で示された意味を有する。(11049条(5)) |
■ 「製品安全データシート」(Material safety data sheet)
「化学物質安全データシート」(Material safety data sheet、MSDS)とは、随時、改正が行われる連邦規則集29 CFR Part 1910.1200「ハザード・コミュニケーション(Hazard communication)」(g)「安全データシート」により、作成を義務付けられているシートをいう。(11049条(6)) |
■ 「放出」(Release)
「放出」(Release)とは、有害化学物質、極めて有害な物質、または有毒化学物質の、環境への流出、漏出、汲み上げ、注入、排出、放出、浸出、投棄、または廃棄(樽、容器、およびその他の密閉容器の放棄または廃棄を含む)を意味する。(11049条(8)) |
■ 「有毒化学物質」(Toxic chemical)
「有毒化学物質」(Toxic chemical)とは、本法11023条(c)に記載されたリストにある物質をいう。(11049条(10)) |
適用除外(対象外・猶予・免除等)

本法の11004条「緊急通知」に規定されている場合を除き、天然ガスの輸送および配給を含め、本章の要件が適用される物質または化学物質の輸送、またはそれに付随する貯蔵には適用されない。(11047条)
事業者が注意すべき内容
本法令が定める事業者に係わる主な要件は次の通りとなります。本項は網羅的なものではないため、詳細や罰則については、個別調査にて承ります。 ご関心がございましたら、お気軽にお問い合わせください。 |

本法の11023条「有毒化学物質排出フォーム」に基づいて、有毒化学物質排出目録(Toxics Release Inventory、TRI)という有毒化学物質を集めたデータベースが作成されている。
なお連邦規則集(40 CFR Part 372「有毒化学物質排出報告:地域社会の知る権利(Toxic chemical release reporting: community right-to-know)」により、このTRIリストに掲載されている化学物質を製造、加工、またはその他の方法で使用する産業施設などは、毎年7月1日までに前年の有毒物質の使用および排出情報をEPA、州政府および先住民部族政府に提出しなければならない。

本法の内容は全て、州法または地方法の上位に位置し、州もしくは地方政府の権限に影響を与え、他の連邦法に基づくいかなる者の義務や責任にも影響を与える。(11041条(a))

本法の対象物質である「極めて有害な物質」の閾値は、行政官の裁量で化学物質のクラスまたは施設のカテゴリーに基づいて決定される。
この「極めて有害な物質」が、当該物質に対して設定された閾値を超える量で当該施設に存在する場合、当該施設は「対象施設」となる。(11002条(b))

緊急時対応計画書(Comprehensive emergency response plans)の提出について:
「対象施設」の所有者もしくは運営者は、所在する州の緊急事態対応委員会(State emergency response commission)に、「極めて有害な物質」の所持を通知する必要がある。この通知が最終的に州から管理官にも通知される。(11002条(3))
「対象施設」の所有者もしくは運営者は、委員会が必要な施設緊急時コーディネーターの氏名など緊急時の対応に必要な情報を通知する必要がある。(11003条(d))

緊急時対応について:
「対象施設」の所有者もしくは運営者は、以下のような放出があった場合、すぐに緊急事態対応委員会に通知する必要がある。(11004条(a))
(1) 本法で定められた「極めて有害な物質(11002条(a))」
(2) (1)ではない物質が「許可を得ていない方法で放出された場合」「通知を必要とする量を超えている場合」「CERCLAによって通知を必要とする放出方法であると指定されている場合」
ただし、施設が立地する施設内のみで人への曝露を伴う放出は除外される。
「対象施設」の所有者もしくは運営者は、上記の通知の際、以下の内容を通知する必要がある。A~H項は(電話等で)すぐに、H~K項はフォローアップ通知(follow up notices)において書面で通知される必要がある。(11004条(b))
(A) 放出に関与した物質の化学名
(B) 当該物質が、本法の11002条(a)で言及されるリストに掲載されているかどうかの表示
(C) 環境中に放出された当該物質の推定量
(D)放出の時間と期間
(E) 放出が発生した媒体
(F) 緊急事態に関連する、既知または予想される急性または慢性の健康リスク、および適切な場合には、曝露された個人に必要な医療措置に関する助言
(G) 避難を含む、放出の結果として取るべき適切な予防措置
(H) 問い合わせ先の氏名および電話番号
(I) 放出に対応し、封じ込めるために取られた措置
(J) 放出に関連する、既知または予想される急性または慢性の健康リスク
(K) 適切な場合には、被ばく者に必要な医療措置に関する助言

製品安全データシート(Material safety data sheets、MSDS)について:
「対象施設」の所有者もしくは運営者は、有害化学物質ごとの製品安全データシートと有害化学物質のリストを、以下の3か所に提出しなければならない。(A)該当する地域の緊急計画委員会、(B)州の緊急対応委員会、そして(C)施設を管轄する消防署。このリストには、各化学物質の化学名または一般名と当該化学物質の有害成分を記載する必要がある。(11021条(a))
ただし、上記の製品安全シートを必要とする「有害化学物質」に、以下のものは含まれない。(11021条(e))
(1) 食品医薬品局が規制する食品、食品添加物、着色料、医薬品、化粧品。
(2) 通常の使用条件下で発生しない範囲で、製造品目に固体として含まれる物質。
(3) 個人、家族、または家庭用に使用される範囲、または一般消費者が流通・使用するために包装された製品と同じ形態・濃度で存在する物質。
(4) 研究所、病院、その他の医療施設において、技術的有資格者の直接監督下で使用される範囲の物質。
(5) 日常的な農作業に使用される、または小売業者が最終的な顧客に販売するために保有する肥料である範囲の物質。

緊急時および有害化学物質インベントリフォーム(Emergency and hazardous chemical inventory forms)について:
「対象施設」の所有者もしくは運営者は、製品安全データシート(MSDS)と共に、緊急時および有害化学物質インベントリフォーム(Emergency and hazardous chemical inventory forms)も、MSDSと同様の提出先に提出する必要がある。(11022条(a))
イベントリフォームには、以下のティア(Tier) I情報を提供する必要がある。また、緊急計画委員会から要請があった場合には、ティアII情報も提供する必要である。(11022条(d))
ティアI
(i) 前暦年のいずれかの時点で、施設に存在した各カテゴリーの有害化学物質の最大量の推定値
(ii) 前暦年中に施設に存在した各カテゴリーの有害化学物質の一日平均量の推定値(範囲)
(iii) 各カテゴリーにおける有害化学物質の一般的な場所
ティアII
(A) 化学物質安全性データシートに記載されている化学物質名または化学物質の一般名。
(B) 前暦年のいずれかの時点で、施設に存在した各カテゴリーの有害化学物質の最大量の推定値
(C) 前暦年中に施設に存在した各カテゴリーの有害化学物質の一日平均量の推定値(範囲)
(D) 有害化学物質の保管方法の簡単な説明。
(E) 有害化学物質の施設内の場所。
(F) 本法11044条に基づき、所有者が特定の有害化学物質の所在地情報を一般に開示しないことを選択したかどうかの表示

有毒化学物質放出フォーム(Toxic chemical release forms)について:
10人以上の常勤従業員を有し、標準産業分類(Standard Industrial Classification、SIC)コードの20から39に属する施設の所有者または運営者は、各有毒化学物質の閾値を超える量を製造、加工、もしくはその他の方法で使用された場合、「有毒化学物質放出フォーム(Toxic chemical release forms)」を行政官および州知事に提出しなければならない。
有毒化学物質とは「1986年緊急時計画および地域住民の知る権利法対象の有毒化学物質」と題された上院環境・公共事業委員会(Environment and Public Works)の委員会印刷番号99-169のリストにある化学物質と定義されている。(11023条)

上記の緊急時対応計画書、フォローアップも含む緊急時通知、物質安全データシートと各有害化学物質のリスト、インベントリフォーム、有毒化学物質放出フォームは、一般公衆に公開されるものとする。(11044条)

他の者に情報を提出することを義務付けられた者(「対象施設」の所有者または運営者)は、有害化学物質、極めて有害な物質、または有毒化学物質の識別情報(化学物質名およびその他の識別情報を含む)を、当該提出物に記載しない「企業秘密」という情報非公開」の権限がある。
ただし、当該化学物質のカテゴリーは記載しなければならず、また行政官の判断により、その権利は制限されることがある。(11042条)

「対象施設」の所有者もしくは運営者は、医療専門家、医師、看護師が守秘義務契約等を結んだ後に、当該有害化学物質の情報を要求した場合、その人に提供しなければならない。(11043条)

「対象施設」の所有者もしくは運営者が、行政官が命じた緊急時通知を行わなかった場合、民事罰違反1件につき日ごとに25,000ドルを超えない民事罰が科せられる場合がある。
2回目となった場合は、この上限が75,000ドルとなる。(11045条(a))。
さらに、徴収が行えない状態であった場合は、行政官は、該当する地区の米国連邦地方裁判所に提訴することができ、有罪判決を受けた場合、所有者もしくは運営者は刑事罰として25,000ドル以下の罰金もしくは2年以下の懲役、またはその両方が科される。
2回目となった場合は、これらの上限が50,000ドルと5年になる。(11045条(b))

製品安全データシート(11021条)、緊急時および有害化学物質インベントリフォーム(11022条)、または有毒化学物質放出フォーム(11023条)の報告義務、もしくは医療専門家等への報告義務を怠った場合、さらには「企業秘密(11042条)」の内容を破った場合、10,000ドルを超えない金額の民事罰や場合によっては1年以下の禁固刑などの刑事罰が科せられる。(11045条(c)(d))
目次
42U.S.C. 第116章 緊急時対応計画及び住民の知る権利
緊急事態の計画と通知
11001. 州委員会、計画地区、地方委員会の設置
11002. 対象となる物質と施設、および通知
11003. 包括的な緊急時対応計画
11004. 緊急通知
11005. 緊急時の訓練と緊急システムの見直し
報告義務
11021. 製品安全データシート
11022. 緊急時および有害化学物質のインベントリフォーム
11023. 有毒化学物質放出フォーム
一般規定
11041. 他の法律との関係
11042. 企業秘密
11043. 医療専門家、医師、看護師への情報提供
11044. 計画、データシート、書式、フォローアップ通知の一般公開
11045. 施行
11046. 民事訴訟
11047. 免除
11048. 規則
11049. 定義
11050. 歳出の承認
基礎情報
法令(現地語) | |
法令(日本語) | 緊急時対応計画及び住民の知る権利法 |
公布日 | 1986年10月17日 (本稿執筆時点の最終改正:2019年12月20日) |
所管当局 | 米国環境保護庁(EPA) |
作成者

株式会社先読