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新たな資源-メタンハイドレート

「燃える氷」として一時期ニュース等で話題になった「メタンハイドレート」は、日本政府の「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」において次のように説明されています。

メタンハイドレートとは、低温高圧の条件下で、水分子にメタン分子(天然ガス)が取り込まれ、氷状になっている物質である。(中略)温度を上げる、ないしは圧力を下げるなどの変化を与えると、水分子と気体のメタン分子に分離する。分離されたメタン分子は天然ガスの主成分と同じものであり、メタンハイドレートは、近年北米で生産が拡大しているシェールガスと
同様に非在来型資源として位置付けられる。

資源エネルギー庁「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」

他方、科学・技術・医学・社会科学分野の電子ジャーナルや書籍を掲載するデータベースとして広く知られているScienceDirectで紹介している説明の一部を引用して紹介します。

メタンハイドレート(MH)とは、(中略)低温高圧下で水の結晶構造の中に多量のメタンガス分子(CH4)が籠り、氷のような固体を形成している化合物である。氷のように見えるが、直火を近づけると燃え始めるため、メタンハイドレートはしばしば「燃える氷」と呼ばれる。過去の調査によると、海底には大量のMHが安定して存在している。天然のメタンハイドレートは人工のメタンハイドレートのように真っ白な塊ではないかもしれない。メタンハイドレートは(中略)砂質堆積物の砂粒子の間に存在するため、メタンハ イドレートを含む堆積物は白くは見えず、むしろ土のように見えるのである。

Liang Cui, … Subhamoy Bhattacharya, in Managing Global Warming, 2019.

メタンハイドレートは、自由気体と水が過剰に存在する低温高圧の条件で安定している。このような条件は、深海の有機物の多い堆積物の中で満たされる。(中略)実線はメタン、水、メタンハイドレートの三相平衡状態を示している。(中略)水深2500m(T~3℃、P~250bar)の海底は、メタンハイドレートの安定領域に入っており、底部の海水がメタンに対して過飽和であれば、メタンハイドレートが生成される。このような条件は、メキシコ湾の大陸斜面やカスピ海の泥火山の上などのメタン湧出地で見られる。浅いところに埋もれている堆積物は、ハイドレートの安定地帯でもある。堆積物の温度は深さとともに上昇し、海底下約600mで安定条件を超え、それ以下ではガスハイドレートは不安定になる。ガスハイドレートの安定性の下限はBGHS(base of gas hydrate stability)と呼ばれる。BGHSは水深や温度勾配によって変化し、例えば水深1000-2000mでは300-400mbsf、3000-4000mでは400-600mbsfとなる。

R. Matsumoto, in Encyclopedia of Ocean Sciences, 2001.

メタンハイドレートは、メタンと水からなる白い氷のような固体である。未来のエネルギー源として期待されている。メタンハイドレートは、メタン分子が水分子でできた微細なカゴの中に入っている。メタンガスは主に、深い堆積層に生息する微生物が、有機物をゆっくりとメタンに変えることで生成される。メタンハイドレートは、35気圧を超える圧力と、ほぼ一様に0~4℃という海洋の底層水や深海底の低温下でのみ安定する。水深約350m以下では、ハイドレートを安定させるのに十分な圧力がかかっている。広大な海盆の底では、深海底の堆積物に含まれる有機物が不足しているため、メタンハイドレートはほとんど見られない。

J.L. Stauber, … S. Apte, in Marine Ecotoxicology, 2016.

このように、メタンハイドレートは非常に特殊な条件下で生成されるものとして認識が進んでおり、そのエネルギー源としての利用にも期待がなされています。

日本

日本では、先述の通り「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」の中で、その政策が位置づけられています。日本周辺には主に2つの賦存形態があると報告されています。

■ 砂層型メタンハイドレート|水深 500m 以深の海底面下数百 m の砂質層内に砂と混じり合った状態で存在|主に東部南海トラフ海域

■ 表層型メタンハイドレート|水深 500m 以深の海底面及び比較的浅い深度の泥層内に塊状で存在|主に日本海側を中心

取り組みとしては、2013-2015年が「技術課題への集中的対応段階」、2016-2018年が「商業化の実現に向けた技術の整備」段階に位置づけられていました。

砂層型メタンハイドレートについては、日本では「減圧法」というメタンハイドレートが埋蔵している地層中の圧力を下げることによって、地層内においてメタンハイドレートを水とメタンに分離し、地表から通したパイプを通じてメタンガスを回収する手法を用いた海洋産出試験が実施されており、安定的な生産量の確保に向けて様々な検討が進められています。

表層型メタンハイドレートについては、資源量把握に向けた調査・検討が行われています。

■ 海洋エネルギー・鉱物資源開発計画/資源エネルギー庁

米国

米国では、2005年エネルギー政策法に基づき、2000年メタンハイドレート調査開発法が制定されており、同法の規定により「メタンハイドレート諮問委員会」が創設されていました。しかし同委員会の活動は2021年01月07日をもって終了となったことが官報で通知されています。

同委員会の活動成果として、同分野で米国がリーダーシップをとるために、7つの勧告がまとめられています。

(I)メタンハイドレートは、大規模で実質的な過渡期のクリーンエネルギー源となる可能性がある
メタンハイドレートは、国や世界にとって重要な天然ガス資源であり、何十年にもわたって 長期的かつ過渡的なクリーンエネルギー燃料を供給するために重要な役割を果たす可能性がある。メタンハイドレート層の持続的かつ経済的な生産を実証する必要があり、この広大な資源に対する理解を深め、メタンハイドレート生産における米国の世界的なリーダーシップを維持するためには、DOE の継続的な投資が必要である。メタンハイドレート資源の国家的、世界的な推定が必要であり、これには埋蔵量、 技術的に回収可能な埋蔵量、そして最終的に経済的に実行可能な埋蔵量が含まれる。

(II)メタンハイドレート生産試験を進める
アラスカ北斜面(ANS)陸上長期メタンハイドレート生産試験(12~24ヶ月)は、メタンハ イドレートの商業生産に関わる重要な問題を解決するための世界初の試験であり、国際的な優先事項 である。現在のメキシコ湾(GoM)メタンハイドレートフィールドプログラムでは、貯留層の特性評価に重点が置かれており、将来的には米国での海洋産出試験につながることが期待されている。従って、これらの陸上及び海上での活動の設計と実行を改善する機会は、本プログラムの 継続的な焦点となるべきである。

(III)メタンハイドレート生産のサイト固有の影響を評価する
メタンハイドレート集積地からのガス生産の影響と、生産時の貯留層の地質力学的安定性については更なる評価が必要である。メタンハイドレートの産出操作は、既知の在来型ガス貯留層の産出操作と類似していると考 えられるが、各サイトにおけるメタンハイドレート産出の潜在的な影響は、サイト固有の地質モデリン グが必要である。しかし、各サイトにおけるメタンハイドレートの生産がもたらす潜在的な影響については、 サイト固有の地質学的モデリングが必要である。

(IV)国際的なフィールドテストプログラムへの米国の参加を維持する
米国の科学者が国際的な海洋メタンハイドレートの研究、試験、及び将来の生産プログラムに参加するための支援を継続することは、米国のリーダーシップを維持するために不可欠である。これらの努力は、将来の米国の海洋メタンハイドレート生産(例:GoM)に適用可能な情報や 洞察を提供する。

(V)メタンハイドレートを他のエネルギー資源と結びつける基礎研究
メタンハイドレートの資源評価を正確に行うことで、他の大規模な微生物によるガス蓄積とそのメタンハイドレートとの関係が明らかになる。そのためには、微生物によるメタンの生産、消費、消失のプロセスと速度を理解する必要がある。また、これらの微生物プロセスを理解することは、米国および国際的に巨大な可能性を秘めた在来型の微生物メタンとそれに付随するメタンハイドレートの探査と評価に不可欠である。これらの資源を評価するためには、一次微生物メタンと変化した熱源性メタンを区別することができる技術の開発と、アビオティック(非生物起源)メタンの寄与の可能性が不可欠である。アビオティックメタンの重要性を調査するためには、各省庁の協力が必要である。

(VI)気候変動に影響を与える可能性のあるメタンハイドレートのグローバルな推定値を改善する
現在の推定では、メタンの酸化により海洋や大気に放出される二酸化炭素が地球の気候に与える影響は小さいと考えられる。しかし、全世界のメタンハイドレートの分布と量は不確かなままである。メタンハイドレート分布のグローバルな推定値が改善されれば、メタンハ イドレートの急速な分解による気候への影響の可能性を理解する上での信頼性が高まる。

(VII)米国のリーダーシップとプログラムの継続性を確保する
メタンハイドレート研究の成功には、本プログラムに対するDOEの資金提供が絶対に欠かせない。産業界は、メタンハイドレートの実用性が実証され、期待される生産コストが地域の経済的 閾値に収まるまでは、メタンハイドレートシステムの基礎研究に資金を提供しないであろう。米国のメタンハイドレートプログラムのリーダーシップと継続性を維持するためには、初期 キャリアの支援が必要である。ハイドレートプログラムのリーダーシップと継続性を維持するためには、初期キャリアの科学者 の支援が不可欠である。

The Methane Hydrate Advisory Committee

■ メタンハイドレート諮問委員会/DOE

 

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