海底・深海底に係わる政策・規制
企業活動に関連して、深海に係る法令の内容としては、深海の資源開発を対象とした法令があります。深海資源は、特に資源に乏しい国、多くを輸入に頼ることで大きな供給リスク(調達リスク)を抱える国にとって、中長期的な資源確保の手段の一つとして検討がなされているものです。しかしながら、深海の資源の把握、採掘、活用、商業化は非常に困難を伴うものであり、民間事業者と国が連携して取り組む必要がある分野の一つとして知られています。
海底に係わる政策と法令
日本を例に挙げると、国家戦略として「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」が経済産業省より公表されており、2019年2月に改訂されています。その中で焦点となっているのは、メタンハイドレート、石油・天然ガス、海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、レアアース泥です。日本は周囲を海に囲まれ、他国に比べ資源が豊富というわけでもないため、この深海資源の探鉱は、大きな課題の一つとなっています。
注)「深海」という言葉について、国連海洋法条約における海底区分に基づき、より厳密には、公海の「深海底」、「延長大陸棚」、排他的経済水域(EEZ)の「EEZ海底(大陸棚)」、「領海の海底」というような細かな把握が必要となります。
法令をみると、「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」等で日本の法令の適用範囲について前提が置かれ、それ以外の、例えば公海における「深海底」については、「深海底鉱業暫定措置法」によって、深海底鉱業の事業活動の調整等に関し必要な暫定措置が規定されています。これは後述する国連海洋法条約に基づく国内法化措置です。この法令で重要な定義として次の2つを取り上げます。
「深海底鉱物資源」とは、銅鉱、マンガン鉱、ニッケル鉱又はコバルト鉱のうちの一種又は二種以上の鉱物を含む塊状の鉱石をいう。
「深海底鉱業」とは、深海底(公海の海底及びその下(鉱物資源の探査又は採鉱に関しいずれの国の管轄権の下にも置かれていない部分に限る。)のうち、深海底鉱物資源が存在し、又は存在する可能性がある区域であつて経済産業省令で定める区域の海底及びその下をいう。)における探査及び採鉱の事業(これに附属する選鉱、製錬その他の事業(以下「附属事業」という。)を含む。)をいう。
他方、排他的経済水域内における資源開発については「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」で次のように規定があります。
第三条 次に掲げる事項については、我が国の法令(罰則を含む。以下同じ。)を適用する。
一 排他的経済水域又は大陸棚における天然資源の探査、開発、保存及び管理、人工島、施設及び構築物の設置、建設、運用及び利用、海洋環境の保護及び保全並びに海洋の科学的調査
二 排他的経済水域における経済的な目的で行われる探査及び開発のための活動(前号に掲げるものを除く。)
三 大陸棚の掘削(第一号に掲げるものを除く。)
日本の要件例
「深海底鉱業暫定措置法」では、「深海底鉱物資源を合理的に開発することによつて公共の福祉の増進に寄与するため、深海底鉱業の事業活動の調整等に関し必要な暫定措置を定める」ことを目的としています。その主な要件は次の通りです。
■ 深海底鉱業の許可制度と手数料
■ 深海底鉱業を行うことに伴う廃水の放流、捨石若しくは鉱さいのたい積又は鉱煙の排出による損害の賠償
■ 報告・検査
■ 罰則
また、このほかに「深海底鉱山保安規則」という法令も存在しています。下記の国際条約等にも関連しますが、海底探鉱において、問題となる論点の一つが、生物多様性への影響や環境汚染です。したがって、検討が進められている分野んは、深海における事業に関連する環境影響評価等も含まれます。
国際海底機関(ISA)と海底鉱物資源関連活動
海底の鉱物資源
鉱物資源は陸地から取得するほかに、海底から獲得する方法もあります。ここ数年では「メタンハイドレート」が話題になったりもしましたが、島国であり資源の確保が大きな課題の一つである日本は、古くから海底資源に着目してきました。海洋基本法に基づいて、2008年に最初の「海洋エネルギー・鉱物資源基本計画」が策定され、日本近海の鉱物資源を探査・活用するための方針が示された後、2019年02月に改定された計画が2022年02月時点で確認できる最新のものとなります。
日本の「海洋エネルギー・鉱物資源基本計画」の詳細と関連政策の近況については、別の記事で記載することとしますが、ここで触れておきたいのは、海底資源の探査・掘削には、上述のような各国の領海内で行われるものと、いずれの国の領海にも属さない、いわゆる「公海」における海底資源探査・掘削があることです。後者について1982年国連海洋法条約(Convention on the Law of the Sea (UNCLOS))では「領域(Area)」という定義を設け、規定しています。また、「領域における活動」についても同様に定義しており、領域内の資源の探査および掘削活動がそれにあたるとしています。
“Area” means the seabed and ocean floor and subsoil thereof, beyond the limits of national jurisdiction;
“activities in the Area” means all activities of exploration for, and exploitation of, the resources of the Area;Convention on the Law of the Sea
ここで、その「領域における活動」について、管理するのは誰か、という点で登場するのが、国際海底機構(ISA)です。領域とその資源は、人類の共通遺産です。エリアは、世界の海の総面積の約54%を占めているとされています。
様々な海底資源
国際海底機構(ISA)
ISAは上述のUNCLOSと同条約第11部の実施に関する1994年協定に基づいて設立された国際機関で、本部をジャマイカのキングストンに置き、UNCLOSの締約国が、領域におけるすべての鉱物資源関連活動を組織し、管理するための組織として位置づけられています。ISAは、深海関連の活動から生じる可能性のある有害な影響から、海洋環境を効果的に保護することも使命に含んでいます。UNCLOSの締約国はISAのメンバーとなっており、2020年05月時点で、ISAには167の加盟国とEUを含む168の加盟国・地域が参加しています。
ISAの加盟国・地域
ISAの加盟国・地域はこちらから確認可能です。
ISAの取り組み
事業者にとって関心があるのは、領域(公海)における海底探査・掘削は、どのような手順で行い、どのような規定を遵守しなければならないのか、という点だと思われます。この点を規定しているのが、ISAが検討・策定・発行・管理する「マイニングコード(Mining Code)」です。
マイニングコード(Mining Code)
「マイニングコード」は、国際海底地域としての「領域」における海洋鉱物の探鉱、探査、開発を規制するためにISAが発行した包括的な規定、規則、手続きです。背景にはUNCLOSの法的枠組みと上述の1994年協定があり、大きく「探査(Exploration)」と「掘削(Exploitation)」に分かれています。
■ 探査(Exploration)
|_探査規則
|_勧告・ガイダンス
■ 掘削(Exploitation)
|_掘削規則(案)
|_基準・ガイドライン(案)
|_公式文書
|_ワーキンググループ など
マイニングコード|探査規則
ポリメタリック・ノジュール(Polymetallic Nodules)について
■ 領域内ポリメタリック・ノジュールの探鉱・探査に関する規則の改正および関連事項に関する国際海底機関理事会決定
■ 領域内ポリメタリック・ノジュールの探鉱・探査に関する規則の改正に関する国際海底機関総会決定
多金属硫化物(polymetallic sulphides)について
■ 領域内での試掘および多金属硫化物の探査に関する規制に関する国際海底機関総会決定
コバルトリッチ・フェロマンガン・クラスト(Cobalt-rich Ferromanganese Crusts)について
■ 領域内のコバルトリッチ・フェロマンガン・クラストの探鉱・探査に関する規則に関連する国際海底機関総会決定
その他
■ 探査契約の管理・監督のための諸経費に関する国際海底機関総会決定
■ 2019年から2020年の会計期間における国際海底機関の予算に関する国際海底機関総会決定
■ 1982年12月10日国連海洋法条約第11部の実施に関する協定附属書第1項、第9項に従って承認された探査作業計画を延長するための手続きと基準に関する国際海底機関理事会決定
(2022年01月確認時点)
マイニングコード|掘削規則(案)
マイニングコードとしての掘削規則案の検討は2014年から開始され、現在確認されている状況では、規則案が作成された段階まで情報が公開されています。正式な規則として発行されるには、総会で採択される必要があるとされています。
(2022年01月確認時点)
探鉱・探査のコントラクター
上記に見るように、領域内の海底鉱物資源の探鉱・探査については、マイニングコードが発行されています。マイニングコードに基づき、探査については、ISAと契約を結ぶ必要があり、各契約者は、契約に基づく活動プログラムの開始に先立ち、探査地域での活動に起因する事故に効果的に対応するための危機管理計画(contingency plan)を事務総長に提出することが義務付けられています。契約を結んだ主体はコントラクター(契約者)と呼ばれ、ISAによって公表されています。
■ ポリメタリック・ノジュールの探査コントラクター|こちらから確認可能
合計で19の主体が確認できます。日本からは、深海資源開発株式会社の名前が挙がっておりますが、2021年06月19日に契約延長失効期限の記載があるため、その後の状況については確認が必要と思われます。
■ 多金属硫化物の探査コントラクター|こちらから確認可能
7つの主体の名前が確認できます。ほとんど全てが各国政府組織とISAの契約となっています。
■ コバルトリッチ・フェロマンガン・クラストの探査コントラクター|こちらから確認可能
5つの主体の名前が確認できます。日本からは独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の名前が確認でき、2029年01月が失効期日とされています。
各コントラクターは、その活動プログラムに関する年次報告書を提出することが求められています。
なお、日本においては、ポリメタリック・ノジュールを「マンガン団塊」、多金属硫化物を「海底熱水鉱床」、コバルトリッチ・フェロマンガン・クラストを「コバルトリッチクラスト」と読み替えた方が政府関連文書と整合性をもって読むことができます。
※海底資源の種類と詳細については別記事にて記載致します。
ISAの取り組みの方向性
調査相談
【例】
■ 事業全般(会社法、登記など)
■ 税務・会計(法人税、所得税、税額控除制度など)
■ 商取引慣行(消費者法、独占禁止、不正競争防止、金融商品取引、個人情報の保護、不正アクセス防止、文書管理、広告、不正表示防止など)
■ 輸出入・貿易(対外貿易、化学物質、自動車、機械、無線機器およびそれらの部材、食品、医薬品、など)
■ 製品安全(消費者製品安全、機械・設備安全、電気製品安全、ガスボンベ・ガスタンク安全、繊維製品、品質表示、子ども用製品安全など)
■ 雇用・労働(労働基準、労働契約、男女平等(ジェンダー)、健康診断など)
■ 資源採掘・管理・処理(資源採掘、輸送、加工・処理、リサイクル、廃棄物管理など)
■ 電力・ガス・水道(電力取引、調達、管理、ガス事業、パイプライン設備、上水道、下水道、飲料水など)
■ 化学物質(取り扱い、保管、貯蔵、廃棄、混合物分類、有害物質規制/含有規制、放射線管理など)
■ 農薬・肥料(許認可、閾値、ラベル、保管管理など)
■ 食品(輸出入許認可、食品添加物、食品接触材料、分析、表示など)
■ 医療(事業の許認可、医薬品管理・販売・管理、表示など)
■ 消防・危険物(火災防止、危険物の保管、取り扱い、建物・設備、行政への届出、輸送など)
■ 建物(建築基準、設備・施設基準、許認可、防火規定など)
■ 労働安全衛生(作業者安全、特定作業や特定設備、特定物質に係わる規定、健康診断、リスクアセスメント、ばく露など)
■ 環境(温暖化対策、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、地下水汚染、エネルギー効率、騒音、オゾン層破壊物質、容器包装、リサイクル、廃棄物など)
■ 循環経済・資源供給(サーキュラーエコノミー、資源管理、重要な原材料/重要鉱物、再生プラスチックなど)
■ 先端技術(人工知能、DX、ドローン、エコカーおよび関連電池、データ管理・取り扱い、サイバーセキュリディ など)
■ 新領域(宇宙、衛星 など)
■ 特許・商標(特許、意匠、商標、著作権など)
■ 罰則・執行(執行プログラム、刑法、罰則規定および事例調査 など)
■ 国際条約関連(POPs条約、バーゼル条約、PIC条約、水銀条約、SOLAS条約など)
■ 調査相談は下記無料相談フォームまたは本サイトの問い合わせフォームよりお知らせください。
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