TCE、CTC、PCEのリスク管理規則
2024年12月、有害物質規制法(TSCA)のもとでのリスク評価結果を背景として、個別のリスク管理規則が連邦官報にて公布されました。
12月17日:トリクロロエチレン(TCE)に関するリスク管理規則
12月18日:四塩化炭素(CTC)に関するリスク管理規則
12月18日:パークロロエチレン(PCE)に関するリスク管理規則
概要・背景
■ トリクロロエチレン(TCE)は、免疫毒性および発達毒性物質であり、 ヒトに対してあらゆるばく露経路で発がん性を有するとして、ヒト健康に対して不合理なリスクを有する物質であると評価された。同物質の大部分は冷媒、特にHFC-134aの製造時に中間体として加工され、TCEの年間生産量の約83.6%を占めているとされ、他には、溶剤としても使用され、洗浄や脱脂(スポット洗浄、蒸気脱脂、コールド洗浄、エアゾール脱脂を含む)に多用されている。TCEは潤滑剤、接着剤・シーリング剤、塗料・コーティング剤、その他雑多な製品など、様々な商業用途や消費者用途で溶剤として使用されている
■ パークロロエチレン(PCE)は、神経毒性を有し、「ヒトにおいて発がん性がある可能性が高い」と考えられており、リスク評価では不合理なリスクを呈するものとして結論づけられていた。PCE は、フッ素化化合物の製造、ドライクリーニングおよび蒸気脱脂用の溶剤としてや、石油化学製造における触媒再生に、また接着剤、塗料およびコ ーティング、エアゾール脱脂剤、ブレーキクリーナー、エアゾール潤滑剤、シーラント、石材磨き、ステンレ ス鋼磨き、拭き取りクリーナーなどの様々な商業用途および消費者用途に使用されている。
■ 四塩化炭素(CTC)は、慢性吸入および経皮ばく露による肝臓および副腎毒性がんの悪影響、ならびに作業場における急性経皮暴露による肝臓毒性が特定され、不合理なリスクを呈する物質として特定されていた。CTCは主にCTCがHCFC、HFCs、HFOの生産における原料として使用されている。
規則目次整理
物質 | トリクロロエチレン(TCE) | パークロロエチレン(PCE) | 四塩化炭素(CTC) |
規則の箇所 | 40 CFR Part 751.301~751.325 | 40 CFR Part 751.601~751.617 | 40 CFR Part 751.701~751.713 |
規則の目次 | 751.301 全般 751.303 定義 751.305 製造、加工、商業上の流通、使用および廃棄の禁止 751.307 HFC-134a製造へのTCE加工の段階的廃止 751.309 ブースターロケットノズルの蒸気脱脂におけるTCE使用の段階的廃止 751.311 アスファルト試験および回収における実験室でのTCEの工業的・商業的使用における TCE 使用の段階的廃止。 751.313 工業用前処理、処理又は公有処理場への TCE の廃棄の段階的廃止。 751.315 作業場化学品保護プログラム 751.317 通電クリーナーの作業場要件 751.319 廃水に関する作業場要件 751.321 川下への通知 751.323 記録保持要件 751.325 適用除外 |
751.601 全般 751.603 定義 751.605 製造、加工、商業上の流通、および使用の禁止 751.607 作業場化学品保護プログラム(WCPP) 751.609 実験室での使用に関する作業場要件 751.611 通電クリーナーに関する作業場要件 751.613 川下への通知 751.615 記録保持要件 751.617 適用除外 |
751.701 全般 751.703 定義 751.705 CTCの特定の工業的および商業的用途、ならびにそれらの用途のための製造、加工、商業上の流通の禁止 751.707 作業場化学品保護プログラム(WCPP) 751.709 米国国防総省による実験用化学物質としてのCTCの使用を含む、実験用化学物質とし ての工業用および商業用の作業場での使用制限 751.711 川下への通知 751.713 記録保持要件 |
禁止要件
■ 最も注意が必要な内容は、751.305~313、751.605、751.705に規定されている禁止要件となる。製造(輸入を含む)や加工、商業上の流通、廃棄を禁止する内容となっており、対象物質や対象物質含有製品についてそれぞれ禁止となる行為を定めている。
■ 全般的な規程もあれば、使用条件(COU)別に規程を設け、移行期間を設け、段階的に廃止する措置を講じているものもある。
■ 禁止事項の適用開始日は、対象(物質単体か、含有製品も含むか 等)、対象行為(製造か、加工か など)、使用条件(COU)などによって定められている個別の規程ごとに確認する必要がある。
作業場化学品保護プログラム(WCPP)
■ WCPPとは、「ばく露管理のための一連の措置」を定める内容となっている。
■ 主に禁止要件の対象とならないCOUに対して、ばく露基準、モニタリング・検出方法、規制区域、呼吸器や個人用保護具(PPE)、ばく露管理計画などについて要件を定めている。
川下への通知
■ 川下への通知要件は、その名の通り、サプライチェーン上の川上から川下への関連情報の提供を要求する内容となっている。
■ 具体的には、SDS上への特定の文言の記載や特定の情報の提供などの形で記載されることが多い。これらは禁止要件などとは別に適用開始日が設定されることが多いため注意が必要。
記録保持要件
■ 規則の要件遵守に関連して、各種記録の保持を求める内容。記録を保持すべき内容やその期間などが定められている。
それぞれの規則に対する詳細整理や解釈、他国での規制動向などは、個別調査にて対応致します。
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参考情報
有害物質規制法(TSCA)とは?
米国の「有害物質規制法」、通称「TSCA」は、化学物質の管理・規制に関する米国の国レベルの基本的な法令の一つです。日本の化審法、EUのREACH規則と並べて、あるいは比較して言及されたりもします。 合衆国法典では第15編、第53章に収載されており、全部で6つの大項目から構成されています。このうち、日本の事業者が関心が高く、よく相談が持ち込まれる大項目は、「有害物質の管理」、「複合木材製品のホルムアルデヒド基準」です。
目次
SUBCHAPTER I 有害物質の管理 SUBCHAPTER II アスベスト有害性緊急対応 SUBCHAPTER III 屋内ラドン削減 SUBCHAPTER IV 鉛ばく露低減 SUBCHAPTER V 健康的な高いパフォーマンスの学校 SUBCHAPTER VI 複合木材製品のホルムアルデヒド基準
注目される制度
TSCAのもとでは様々な規制が敷かれていますが、事業者からの相談・問い合わせが多く、注目度が高い制度には次のものが例として挙げられます。
新規化学物質の製造前届出制度
■ 第5条(§2604)(a)(1)に基づき、新規化学物質の製造・輸入・加工については、90日前までにEPAへの届出が必要
化学物質の試験制度
■ 第4条(§2603)に基づき、EPAが人の健康や環境へ不当なリスクをもたらすと判断した場合には、化学物質や混合物の製造、商業流通、加工、使用、廃棄、またはそのような活動の組み合わせに関連して、関連事業者に試験の実施を要求することができる。関連規則に基づき、規則や同意命令などの形で発出される。
重要新規利用規則(SNUR)
■ 第5条(§2604)(a)(2)に基づき、化学物質の使用が、通知が必要とされる重要新規利用(Significant New Use)であるかどうかをEPAが判断し、必要に応じて規則を設ける。特定されたものについて、製造者・輸入者や加工業者は、当該新規利用を開始する90日前までに関連規則に基づいた通知(SNUN)が必要とされる。
化学物質のリスク評価制度に基づく個別の規制
■ 第6条(§2605)に基づき、EPAが化学物質または混合物の製造、加工、商業流通、使用、廃棄、またはそのような活動の組み合わせが、人の健康や環境へ不当なリスクをもたらすと判断した場合には、規制を定める規則の検討を行う。
既存化学物質の管理制度
■ 第8条(§2607)に基づく記録保持・報告要件は、インベントリー制度としても知られている。EPAが化学物質についての情報をインベントリーとして管理するために、事業者には情報の提出や更新が求められている。
輸出入規制
■ 輸出(§2611)や輸入(§2612)についても規制が敷かれているが、特に注目されるのは、輸入時における「TSCA証明」である。詳細は規則で規定されているが、輸入化学物質が TSCA に準拠していることを証明する方法(positive certification)と、TSCAの適用外であることを証明する方法(negative certification)が存在する。
複合木材製品規制
■ 米国内で販売、供給、販売促進、製造、輸入される複合木材製品は、TSCA Title VI適合と表示されなければならない。これらの製品には、広葉樹合板、中密度繊維板、パーティクルボード、およびこれらの製品を含む家庭用品やその他の完成品(finished goods)が含まれる。自主的合意基準、第三者認証制度など要件遵守保証のための制度が導入されている。
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