EU|欧州委員会、「欠陥製品の責任に関する欧州議会及び理事会の指令」案についての意見募集

デジタル時代と循環型経済に適合した賠償責任ルールの確立

2022年10月3日、欧州委員会は、「欠陥製品の責任に関する欧州議会及び理事会の指令」案についての意見募集を開始しました。本提案は、指令85/374/EEC(1985年の製造物責任指令)の廃止に向けた欠陥製品の責任に関する指令に付随するものです。

PLD(製造物責任指令)の目的は、欠陥製品によって身体的損傷や物的損害を被った人々を補償するためのEUレベルのシステムを提供することです。特に、今回の提案では、循環型経済やデジタル経済への移行に関連する展開を考慮して、この枠組みを適応させることを目的とし、人工知能がもたらす課題にも対応しています。

本提案は、2022年10月3日~2022年12月7日(ブリュッセル時間午前0時)の期間で意見募集が行われています。意見については、欧州議会および理事会に提出され、立法論議に反映される予定です。

背景、経緯

デジタル経済・社会への変革は、単一市場の経済的現実を変えつつあります。特に人工知能(AI)は、すでに社会や経済に恩恵をもたらし、素材の寿命延長、製品の改良及び修理の向上が見込める循環型経済への移行は環境にも恩恵をもたらしますが、同時にその後の損害に対する責任も生じることになります。

EUの安全枠組みの全体的な目的は、ロボット工学、モノのインターネット(IoT)、AIなどの新しいデジタル技術を統合したものを含むすべての製品とサービスが、安全、信頼性、一貫性をもって動作することを保証することですが、損害が生じた場合の救済については、責任の枠組みとして規定されています。

賠償責任の枠組みの目的は、

(i) 産業界が事業過程で負うリスクについて法的確実性を提供
(ii) 被害の予防を奨励
(iii) 被害を受けた当事者が確実に補償を受けられるようにする

の3項目になります。法的責任に関する規則は、これらの目的と技術革新の促進との間で微妙なバランスを取る必要があるとされています。

既存の法的責任の枠組みは、製造物責任指令 85/374/EEC (指令) と各国の法的責任規則で構成されています。各国の賠償責任制度は、製品やサービスによって生じた損害に対する様々な賠償請求を規制しています。

多くの請求は、責任を負うべき者の行為(「過失責任」)、例えば、製品の生産者、サービス提供者、個々のユーザーに基づき、その他の様々な請求については法律で特定された者(通常は、公衆を危険にさらす活動から利益を得る事業者、ユーザー、所有者)が、過失とは無関係に責任を負う(「厳格責任」)ことになります。

この指令は、EUレベルでの請求で、製品の欠陥により消費者に生じた損害に対する生産者に対する請求をバランスせるものと説明されています。生産者は、被害者が損害、欠陥および両者の間の因果関係を証明することを条件に、製品の欠陥によって引き起こされた損害に対して厳格な責任を負うことになります。この指令は、原材料から複雑なAI駆動装置まで、膨大な種類の製品に対して1つの規定を定めるものでもあります。

解決すべき課題

解決すべき課題は以下の通りとなります。

1. デジタル時代と循環型経済にそぐわない賠償責任ルール

a) デジタル技術

デジタル製品の無形性、データへの依存、複雑性、接続性など、デジタル技術の特徴は、責任規則を適用する上で課題があり、AIについても、自律的な行動、継続的な適応、限られた予測可能性、不透明性等の点でも同様です。これは、企業にとって法的不確実性をもたらし、消費者やその他の被害者がこれらの技術を使用した製品やサービスによって生じた損害の補償を受けることを困難にする可能性があります。

i) 2018年の指令の評価では、デジタル技術全般に関していくつかの欠点が指摘されています。

デジタル製品の無形性 デジタルコンテンツ、ソフトウェア、データは多くの製品の安全な機能において重要な役割を果たしているが、無形の要素が指令の下でどの程度まで製品として分類されるかは明確でなく、ソフトウェアに起因する損害(サイバーセキュリティのリスク、デジタル資産への損害やプライバシー侵害のリスク等)について、被害者が常に補償を受けられるのか、責任の所在が不明確です。

ii) 指令の下では、輸入者は製造物責任の目的上、生産者として扱われますが、デジタル時代はバリューチェーンにも変化をもたらし、オンラインマーケットプレイスの台頭により、消費者は輸入業者がいなくても EU 域外から製品を購入できるようになり、消費者は損害が発生した場合に指令に基づく補償を求める責任者がいないという状態になっています。

iii) 特に AI に関しては、人間の監視、透明性、ユーザーへの情報提供に関する AI 法の提案で規定された義務により、AI 製品やサービスがより安全になるはずですが、AI の特殊性により、指令と国内の民事責任規則に基づいて損害賠償を受け、自らの責任を十分に確実に把握することが困難になっています。特定の国内「厳格責任」規則が適用されるかどうか、またどの程度まで適用されるかも不明です。

b) 循環型経済

製品を修理、リサイクル、改修、アップグレードする循環型ビジネスモデルはますます一般的になり、持続可能性と廃棄物削減の目標を達成するための EU の努力の中心となっていますが、指令の下では、流通に乗せられた時点での製品の欠陥が決定的となっています。

評価では、流通開始後の製品の変更に起因する欠陥に対して誰が責任を負うべきかについて、指令が不明瞭であることが判明しており、この課題についてさらなる分析が必要となっています。製品は環境破壊を引き起こす可能性もありますが、現在のところ、この指令では補償することができません。

2. 補償を得るための重大な障害とEU域内市場における障害

指令の2018年評価では、医薬品や新興のデジタル技術を使用した製品など、特定の製品の複雑さにより、被害を受けた当事者は、欠陥が被った損害の原因であることを証明すること、したがって補償を受けることが非常に困難であることが判明しました。

ある種の不透明なAIシステムでは、そのシステムがどのようにして特定の出力を生成するかを理解することが限られた範囲で可能です。これらの特徴により、損害を受けた当事者が、潜在的責任者の過失や欠陥、その過失・欠陥と被った損害との因果関係を特定・証明することが非常に困難かつ高コストとなる可能性があります。

この立証の重責は、さらに被害者がAI製品やサービスに関する十分な技術情報を持っていない可能性があるため、かなり不利な立場に立たされることになります。

例えば、立証責任を軽減したり、国内法の下で厳格責任制度の広範な解釈を展開することですが、もし加盟国がその結果生じる法的不確実性に国内レベルで対処しようとすれば、AIによって生じた損害に対してEUの責任ルールの分断につながる可能性があります。

重要な実現技術としてのAIの特殊性と経済的重要性を考慮すると、この分野での調和された規則の欠如は、域内市場における障害につながる可能性があります。

提案の目的

本提案は、指令85/374/EEC(1985年の製造物責任指令)の廃止に向けた欠陥製品の責任に関する指令の提案に付随するものです。PLD(製造物責任指令)の目的は、欠陥製品によって身体的損傷や物的損害を被った人々を補償するためのEUレベルのシステムを提供するものです。

1985年以降、製品安全や市場監視のルールの近代化など、製品の生産、流通、運用に大きな変化が起き、グリーンおよびデジタルへの移行により材料や製品の長寿命化、スマート製品や人工知能による生産性や利便性の向上等でEU諸国の社会や経済に多大な利益をもたらしています。

「PLD」の評価については、欧州委員会の規制の適性および性能(REFIT)プログラムの一環として2018年に実施され、PLDは全体として有効かつ適切な手段であるとの結論に達しました。しかし、下記の通り、同指令には幾つかの欠点もありました。

■ PLDの数十年前の定義と概念を現代のデジタル経済における製品に適用する方法が法的に不明確であったこと。

■ 現代のデジタル経済や循環型経済における製品(例えば、ソフトウェアやデジタル経済や循環型経済における製品(例えば、スマートデバイスや自律走行車など、機能するためにソフトウェアやデジタルのサービスを必要とする製品)に、数十年前のPLDの定義や概念をどのように適用するかが法的に不明確だったこと。

■ 立証責任(補償を得るためには、製品に欠陥があり、それが原因で損害が生じたことを証明する必要がある)は、複雑なケース(医薬品、スマート製品、AI搭載製品など)の被害者にとって困難であったこと。

PLDの改定は、域内市場の機能、商品の自由な移動、市場運営者間の歪みのない競争、消費者の健康や財産の高度な保護を確保することを目的としています。

■ 責任に関する規則が、デジタル時代と循環型経済における製品の性質とリスクを確実に反映すること。

■ EU圏外のメーカーから直接購入した製品に欠陥があった場合、EU圏内に拠点を置く事業者が常に責任を負うことができるようにすること。

■ 複雑なケースにおける立証責任を軽減し、クレーム作成の制限を緩和する。製造者、被害者、消費者一般の正当な利益との間の公正なバランスを確保しながらも負傷者及び一般消費者の正当な利益との間の公正なバランスを確保すること。

■ PLDを、決定768/2008/ECによって作られた新しい法的枠組みや製品安全規則とよりよく整合させ、PLD関連の判例を体系化することによって、法的確実性を確保すること。

提案の概要

EUの製品安全法は、安全な製品のみが域内市場に出回ることの保証を目的としており、分野別法令(機械、医薬品、玩具、無線機器など)が適用される場合は、そこに定められた安全衛生に関する必須要件に適合することを要求しています。

安全規則は、市場監視規則によって施行され、不適合製品の流通を阻止し、または適合させることによって、消費者保護を保証しています。製品安全法には事業者の責任に関する具体的な規定はありませんが、欠陥のある製品が損害を与えた場合にPLDが適用されることに言及しています。

したがって、製品安全と製造物責任は、高いレベルの安全性を確保し、機能する商品の単一市場を実現するための補完的なメカニズムとなっています。製品安全の分野では、現在、多くの立法案が審議中となっています。

人工知能法の草案は、リスクの高いAIシステムが安全性と基本的権利の要件(例:データガバナンス、透明性、人間の監視)に適合することを保証することを目的としています。

PLD案では、AIシステムは、システム自体に欠陥があり、身体的損害、財産的損害、データ損失が発生した場合、AIシステム提供者に賠償を求めることが可能としています。AIシステムの提供者、またはAIシステムを他の製品に組み込んだメーカーに補償を求めることができるようにしています。

これにより、製品安全分野におけるデジタル化のリスクに対処することを目的としています。

サイバーセキュリティの分野では、サイバーセキュリティ法と無線設備指令に基づく委任法がサイバーセキュリティリスクを軽減することを目的としていますが、製造者の責任を規制していません。

最近提案されたサイバーレジリエンス法は、既存の規則に基づいて、メーカーやソフトウェア開発者にサイバーセキュリティリスクを軽減するよう促していますが、法的責任については触れていません。

循環型経済に関しては、2020年循環型経済行動計画が、再使用、修理、再製造、高品質リサイクルを前提にした高品質・高機能・安全な製品を提供するための持続可能な製品政策を発表しています。この行動計画では、欠陥製品の責任に関する措置は考慮されていません。

本提案とセットで採択された「非契約上の過失に基づく民事責任規則の人工知能への適応に関する指令案」は、特定のAIシステムが損害の原因に関与している場合に、各国の過失責任制度の下で追求される賠償請求における情報へのアクセスを容易にし、立証責任を軽減することを目的としています。PLDの下で行われる請求との重複はありません。

予想される影響の予備的評価

■ 経済的影響

既存の賠償責任の枠組みを新技術と循環経済に適応させることによって、賠償責任に関する明確な規則を提供することは、生産者、サービス提供者、事業者に、賠償責任の評価と適切な保険加入の確実性を与えます。これは、革新的な製品やサービスを販売するために必要な投資の安定性を生み出すと期待されています。

調和された規則を提供することは、域内市場の機能を向上させ、特に中小企業や新興企業にとっては、企業が対象とする市場ごとに個別に賠償リスクを評価する必要性や、関連する法的不確実性やコストを削減できるため、コスト削減をもたらすと考えられています。

厳格な責任を拡大し、立証責任を軽減することは、賠償請求の成功率を高めることにつながるため、損害に対するコストを、保険料または損害当事者に支払われる賠償金の中で、損害を与えた責任事業者に再配分することになります。

また、保険の適用により、責任事業者はその費用を年間保険料に抑えることが期待できます。AI製品・サービスを含む新技術や循環型経済製品によって引き起こされた損害の消費者や被害者に公正なルールを提供することは、そのような製品やサービスの信頼とより高い利用を促進すると考えられています。

■ 社会的影響

明確な責任ルールが安全要件の遵守を促し、企業による過剰なリスクを負うことを防止し、コストの効率的な配分を可能にし、その結果、競争力の向上に繋がります。新技術や循環型経済に適応した責任ルールは、損害を受けた当事者に効果的な救済を提供することにより、信頼を築いていくことが期待できます。

■ 環境への影響

循環型経済に関わる人々にとってより明確な責任ルールは、修理、リサイクル、更新、アップグレードされた製品や、モビリティサービスなどの持続可能なサービスのビジネスモデルに法的確実性をもたらします。

これは、EUの持続可能性と廃棄物削減の目標達成に貢献し、EUの明確な責任規定があれば、より迅速で幅広いAIの展開が可能になると考えられています。したがって、効率的なAIによるエネルギー供給や、AIによる公共交通サービスなど、様々な分野で期待される環境上の利益がより迅速に達成されるとみられています。

■ 基本的権利への影響

AIを含む新技術によって生じた損害に対する明確な責任規定は、効果的な救済を受ける権利と損害を受けた当事者間の平等な扱いを強化します。安全およびサイバーセキュリティの要件と基本的権利(AI法提案への準拠を含む)への準拠を促進することによって、間接的に人々の生命、健康、財産を保護します。

指令の改正、特に立証責任、500 ユーロの基準、製品が流通し始めてから 10 年後に生産者の責任を免除する期限は、効果的な救済を受ける権利を促進すると考えられています。

■ 行政負担への影響

このイニシアティブは、EU全域での法律の分散化による規制コストの増加を防ぐことを目的としています。責任に関する規則は、各国の裁判所が適用しやすくなり、司法の全体的な効率(コストの削減と迅速な紛争解決)を高めることになります。

指令の評価では、現在の行政負担は非常に低く、簡素化の必要はないとのことでした。責任ルールをデジタル時代と循環経済に適応させることで、新たな情報要件が発生したり、企業や消費者に管理コストが発生したりすることはく、事業者にも新たな直接的調整コストが発生することはないと考えられています。

但し、特定のケースでは、保険要件として、これまで保険に加入していなかったAI事業者に保険加入を義務付けるか、あるいは、これまでの保険契約と比較して保険料が増加する可能性があります。

参考情報

  • Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on liability for defective products
  • Adapting liability rules to the digital age and circular economy

上記の情報はEU公式サイト「Civil liability – adapting liability rules to the digital age and artificial intelligence」より取得可能です

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