EU規則を国際的な規制と整合させ、海運部門の公平な競争条件を確保するとともに、デジタル化とEUの協力強化を通じて、実施と執行を改善
2023年06月01日、欧州委員会は、EUの海上安全に関する規則を近代化し、船舶による水質汚染を防止するための5つの立法案を提示しました。
EUの対外貿易の75%は海上輸送であり、海上輸送はグローバル化した経済の大動脈であるだけでなく、EUの島々や周辺地域、遠隔地の海洋地域にとっても生命線となります。現在、EU水域における海上の安全性は非常に高く、死亡事故はほとんどなく、最近の大規模な油流出事故もありませんが、それでも毎年2,000件以上の海難事故や事件が報告されています。
今回の提案は、クリーンで近代的な海運を支援するための新たな手段をEUに整備するものです。この提案は、EUの規則を国際的な規制と整合させ、同部門の公平な競争条件を確保するとともに、デジタル化とEUの協力強化を通じて、実施と執行を改善するものです。欧州海上保安機関(EMSA)は、新規則を施行するために加盟国の行政を支援することで、新規則の施行において重要な役割を果たすことになります。また別の提案では、EMSAの任務の変更を提示し、これらの新しい任務を組み込んでいます。
この提案は今後、欧州議会と欧州理事会による通常の立法手続きで検討されます。
海上安全規則の近代化と改善
5つの提案のうち3つは、海上安全規則の近代化と改善に焦点を当てています。これらの5つの提案は、港湾管理および海難事故調査に特別な注意を払い、事件や事故を減らすために規則の執行を強化し、最終的に人命の損失や環境汚染を防止するものです。
提案パッケージには次のようなものが含まれています。
– 国際ルールに基づく旗国(船舶が登録され所属されている国)検査の明確な要件と、加盟国当局の船隊管理を強化するための各国当局に対するEMSAの具体的な研修の実施を行います。
これに伴い、海上の安全性を向上させ、環境汚染のリスクを低減し、EU旗国が高品質の海運サービスを提供し続けることが保証されます。本提案により、旗国間の検査結果やコンプライアンス全般に関する情報共有が促進されます。EMSAは、旗国の検査官のための専門能力開発および訓練プログラムの改訂を通じて、この協力を支援しています。
– 港湾国の管理は、バラスト水や沈殿物、難破船の撤去に関する新条約など、追加の国際規則をカバーするために拡張されます。また、この提案は、新たな要件を反映させるために船舶の検査対象方法を更新し、船舶のリスクプロファイルを決定する上で、船舶の環境関連の性能や欠陥をより重視しています。その他の変更点は、加盟国が安全や環境・汚染防止の規則・基準を遵守していないことを探知し、是正する能力をさらに向上させることです。
– 重大な安全上の懸念が残る漁船については、ポート・ステート・コントロール(船舶の船籍国による監督を補完する立場から、外国船舶の入港を許可した国が、その外国船舶に対して、国際基準を遵守しているかどうかを検査)と事故調査の範囲が拡大されます。
加盟国は、EUの港に寄港する24メートルを超える漁船に対して、ポート・ステート・コントロールを適用することを選択できます。同時に、15メートル未満の小型漁船が関与する最も深刻な事故については、加盟国は報告を行い、注意を促すための審査を行わなければなりません。旗国および港湾国の管理業務はデジタル化され、電子証明書の利用が奨励されます。これは、EMSAのITシステムとデータベースにより可能となります。
– 各国の事故調査機関は、EMSAからさらなる支援を受けます。要請があれば、さまざまな分野の専門家や専門的なツールや機器が提供されます。
船舶由来の汚染への取り組み
本提案は、欧州の海へのあらゆる種類の違法排出を防止することも目的としています。これを達成するためには、違法排出を検知し、違反行為を追及し、違法行為の加害者に制裁を加える必要があります。
これを達成するために、本提案には以下のような取り組みがあります。
– EUの規則を国際的な規制と整合させ、汚染物質の範囲を拡大します。欧州委員会は、従来の規則で対象としていた油や有害液体物質の違法排出に加えて、包装された形で持ち運ばれる有害物質、汚水、ゴミ、排ガス浄化装置(スクラバー)からの排出水や残留物も含めることを提案しています。
– EMSAの監視・情報共有データベースであるCleanSeaNetを最適化し、潜在的な汚染の検出と検証に責任を負う各国当局による情報共有とフォローアップ義務を規定しています。この強化されたシステムは、国境を越えた船舶による汚染事故が発生した場合、加盟国間の協力だけでなく、タイムリーな取締りを促進します。
– 罰則とその適用に関する強化された法的枠組みを確立し、国家当局が違法排出の場合に適切な措置を講じ、罰金などの罰則を課すことができます。この提案は、排出の重大性、環境への影響、責任主体の財政力など、行政罰の効果的な適用のための最低限の基準を提示しています。
欧州海上保安機関の任務の刷新
本提案は、安全、汚染防止、環境保護、気候変動対策、保安、監視、危機管理、デジタル化など、多くの海上輸送分野でEMSAが果たす役割の拡大をより反映させるため、EMSAの職務権限を更新するものです。
例えば、欧州委員会と加盟国は、燃料EU海事規制(FuelEU Maritime Regulation)の実施や、EU排出量取引制度の海上輸送への拡大において、EMSAの支援を受けることになります。また、海上監視、サイバーセキュリティーの回復力、危機への備えに関して欧州委員会と加盟国を引き続き支援し、ITツールの利用を通じて加盟国間の報告を簡素化する上で重要な役割を果たします。
本提案の背景
欧州委員会は、EUグリーン・ディール、スマートで持続可能なモビリティ戦略、汚染ゼロ行動計画に掲げているように、海運を排出、汚染、事故ゼロへの道に導くというビジョンを掲げています。
本日の提案は、欧州委員会の持続可能でスマートなモビリティに関する取り組みの具体的な成果の一部です。EUは、「2030年までに達成すべき55%温室効果ガス削減目標(Fit for 55)」パッケージ(2023年04月25日採択)の一環として、EU排出権取引制度(ETS)を海上輸送に拡大することを決定し、燃料EU海上規制(FuelEU Maritime Regulation)を採択しました。両法律文書は、脱炭素海運への移行に貢献するもので、クリーンな技術と燃料は、持続可能性と汚染ゼロの課題も支援するものです。
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