EU|欧州委員会、「欧州重要原材料法案」策定へ向けて意見募集を開始
重要な鉱物資源等のEUへの持続可能な供給確保
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2022年9月30日、欧州委員会は、イニシアティブとしてグリーンディール・デジタル移行の達成に向けた重要原材料法案策定に向けた影響評価のための意見募集文書を公表し、意見募集を開始するとともに、公開協議も開始しました。
EUは、グリーンディール・デジタル移行を達成するために重要な原料供給を大幅に増やし、多様化及び循環性を強化し、研究・イノベーションを支援する必要があるとしています。
このイニシアティブでは、EUの戦略的利益にかなう、厳しい環境保護を伴う鉱物資源と原料プロジェクトの特定を通じて、重要な原材料に関する対外政策の両方を強化することを目的としています。欧州委員会は、2022年9月30日〜2022年11月25日の期間で意見募集を行っています。
背景、経緯
重要な原材料(CRM)は、グリーンディール・デジタル移行だけでなく、EUのレジリエンスや安全保障といったEUの他の優先事項である防衛、航空宇宙、健康産業等にとっても極めて重要となっています。
欧州委員会は、持続可能な供給を確保するために、2008年から特化した戦略を策定し、「2020年重要な原材料に関する通達」の中で行動計画を提示しています。行動計画は順調に進んでいますが、世界的な需要の高まりと地政学的な不安定の増大という現在の状況下では、さらなる努力が必要な状況です。
ロシアの化石燃料への依存を減らし、欧州グリーンディールが掲げる2050年までの気候ニュートラル達成に向けた進展を加速する必要性に鑑み、REPowerEUコミュニケーションは、エネルギー転換の緊急加速を発表しています。また、2022年3月の欧州理事会ヴェルサイユ宣言では、特に単一市場の強みを生かし、重要な原材料のEU供給を確保することが求められています。
このような背景から、フォンデアライエン欧州委員会委員長は、一般教書演説の中で、欧州重要原材料法案策定に向けた取り組みを発表し、特にバリューチェーンに沿ったすべての戦略的プロジェクトを特定し、供給が危機にさらされているところに戦略的備蓄を積み重ねることや自由貿易協定と新たなパートナーシップを通じて供給の多様化を追求する等について述べました。
これには、歪みのない貿易と投資の確保、志を同じくするパートナーや資源の豊富な国々との産業・協力活動を展開することも含まれます。したがって、この構想は、規制的及び非規制的活動からなるパッケージの形をとることになります。
本イニシアティブが克服すべき課題
重要な原材料の十分な供給を確保することは、EUのグリーン・デジタル移行にとって最も重要なことです。現在、EUは、いくつかの重要な原材料について、少数の第三国からの集中的な供給源に大きく依存しています。
現在の予測によれば、レアアースやリチウムといった一部の重要な原材料の世界需要は、間もなく世界供給を上回ることになり、他の主要経済国が戦略的に供給確保に向けた取り組みを強化し、重要な原材料の需要を増大させることで潜在的な貿易制限につながる可能性があります。
EUは現在、グリーン・デジタル移行を達成するEUの能力に影響を与えかねない、結果として生じる構造的な供給リスクを最小化するための手段を欠いています。
必要な供給を増やし多様化するためのEUのさらなる取り組みがなければ、EUの重要な原材料のバリューチェーンと外部供給は将来の需要を満たすのに十分ではなく、重要な原材料のEUの監視と統治は不完全となっています。
この結果、EUの依存関係、集中した供給源への依存、地政学的緊張に対する脆弱性をさらに悪化させ、マイナスの影響を与えるとされています。
これを克服するために、本イニシアティチブは以下のような課題を解決することを目的としています。
1. EUの供給源の多様性が低いこと
EUはしばしば、少数の第三国に大きく集中した供給源に依存している。このことは、EUの供給途絶に対する脆弱性を高め、供給不足と価格上昇の可能性をもたらす。
2. EUの供給における未開発の潜在能力
バリューチェーン全体にわたって、課題とボトルネックがEUの強力な国内供給能力の発展を妨げている。まず、鉱物探査への投資不足がEUの潜在的鉱物資源を事業化することを阻んでいる。
後の段階(抽出、精製、リサイクルなど)では、長くて複雑な許認可手続き、限られた一般市民の受け入れ、資金調達の困難さなども、EUにおける重要な原料プロジェクトの展開を妨げている。
3. 監視とリスク管理の能力の弱さ
提案されている新しいEUのツールは、突然の予期せぬ危機が顕在化したときに単一市場を保護するが、監視とリスク管理に関するEUレベルの調整は、重要な原材料の供給中断を予測・防止するにはまだ不充分である、等。
目的、骨子
このイニシアティブの主な目的は、グリーン及びデジタル移行を支援し、EUの回復力を強化するために、重要な原材料の持続可能な供給を確保することです。
欧州委員会は、規制的及び非規制的措置を通じて上記の問題に対処することにより、この目的を達成しようとするものであり、これらは重要な原材料に関するパッケージを形成します。
基本シナリオ(現状)のほかに、欧州委員会は、立法的及び非法律的措置に焦点を当てた選択肢を評価します。規制の側面は、以下の4つの主要な柱を中心に構築される可能性があります。
1. EUの行動の優先順位と目標を定めること
■ 事前に設定した基準(経済的重要性、供給の集中、需要の代替、戦略的用途、供給不足の予測を含むがこれに限定されない)に基づく戦略的重要原料を決定する。原料に関するリストは、他の目標の範囲を決定し、EUの優先的なニーズを示すことができる。
■ 国とEUの努力の指針となる、異なるバリューチェーン段階での能力向上に関するEUの目標を設定する。
2. CRM分野におけるEUのモニタリング、リスク管理、ガバナンスの改善
■ 関連する加盟国機関を含む、タイムリーな情報共有のための専用の業務ネットワークの構築。このネットワークは、早期警戒メカニズムの開発、重要なサプライチェーンに関するストレステストの実施、戦略的鉱物資源のマッピングなど、監視に関する行動の開発を任務とすることができる。また、戦略的プロジェクトのリストを推奨するなど、他の目的の実施も支援する。
3. EUの重要な原材料のバリューチェーン(採掘、精製、加工、リサイクル)の強化
■ EUの重要な原材料への多様なアクセスを確保するのに役立つ可能性があり、環境・社会的パフォーマンスの高いEU内の戦略的プロジェクトを特定する。
■ 戦略的プロジェクトが、環境保護協定と市民参加のための共通基準を完全に遵守した上で、資金調達へのアクセス改善、合理的で予測可能な許認可、及び必要な場合のリスク軽減の恩恵を確実に受けるようにする。
■ バリューチェーンの発展を可能にするための投資能力の開発。
例えば環境的・社会的パフォーマンスに基づく資金調達へのより良いアクセスから利益を得ることができるEU域外の戦略的プロジェクトを特定すること。
4. 単一市場全体において、例えば以下のような持続可能な公平な競争の場を確保
■ 重要な原材料の材料効率的なリサイクルを促進するための廃棄物と循環性の枠組みの強化として、サプライチェーンの途絶のリスクを軽減するために、関連する重要な原材料の戦略的備蓄の透明性、利用可能性、協調性を強化する。
■ 技術革新、高い環境・社会・ガバナンス基準を支援するために、十分な欧州及び国際的技術基準の利用可能性を確保し、単一市場及び国際的に公平な競争条件を確保する。
例えば、リサイクル義務や、EU内外での生産過程の二酸化炭素排出量に関する情報要件を設定することにより、希土類永久磁石のようなグリーン移行に不可欠な原料ベースの製品及び部品に公平な競争条件を確保すること。
■ これらの規制上の措置と密接に関連しながら、欧州委員会は、以下の目標も達成することにより、重要な原材料に関する取り組みを強化する、等。
重要な原材料とは
原材料は欧州経済にとって極めて重要であり、強力な産業基盤を形成し、日常生活や現代技術で使用される幅広い商品と用途を生み出しています。
但し、特定の原材料への確実で安定したアクセスは、EU域内だけでなく世界的にも懸念されており、この問題に対処するため、欧州委員会はEUにとって重要な原材料(CRM)のリストを作成し、定期的な見直しと更新を行っています。CRMは、EU経済にとって重要度が高く、その供給に関連するリスクの高い原材料を組み合わせたものです。
産業との結びつき-非エネルギー原料は、すべてのサプライチェーンの段階において、すべての産業と結びついています。現代技術-技術の進歩と生活の質は、増え続ける原材料へのアクセスに依存しています。
例えば、スマートフォンには最大50種類の金属が含まれている可能性があり、そのすべてが小型、軽量、機能性に寄与しています。環境-原材料は、クリーンテクノロジーと密接に関係しており、ソーラーパネル、風力タービン、電気自動車、エネルギー効率の高い照明など、代替のきかない存在です。
2011年の14材料、2014年の20材料、2017年の27材料と比較して、2020年のEUリストには30材料が含まれています。26素材がリストに残り、ボーキサイト、リチウム、チタン、ストロンチウムが初めてリストに加わっています。
ヘリウムは、供給集中に関する限り、依然として懸念材料であるが、経済的重要性が低下したため、2020年の重要リストから姿を消しました。欧州委員会は、ヘリウムがさまざまな新しいデジタル用途に関連していることを考慮し、今後も注意深く監視を続けています。また、蓄電池の需要増に関連する動きを考慮し、ニッケルも監視しています。
2020年のEUにおける重要な原材料に下表に示します。
アンチモン | ハフニウム | リン |
バライト | 重希土類元素 | スカンジウム |
ベリリウム | 軽希土類元素 | 金属珪素 |
ビスマス | インジウム | タンタル |
ホウ酸塩 | マグネシウム | タングステン |
コバルト | 天然黒鉛 | バナジウム |
原料炭 | 原料炭 | ボーキサイト |
蛍石 | ニオブ | リチウム |
ガリウム | 白金族金属 | チタン |
ゲルマニウム | リン酸塩岩 | ストロンチウム |
世界及び国内の主なCRM生産者
EUの産業と経済は、多くの重要な原材料が第三国によって生産、供給されているため、その入手を国際市場に依存しています。EUには、ハフニウムをはじめとする一部の重要な原材料の国内生産が存在しますが、ほとんどの場合はEU以外の国からの輸入に頼っています。
多くの重要な原材料の供給は、非常に集中しています。例えば、中国はEUの希土類元素(REE)の供給の98%、トルコはEUのホウ酸塩の供給の98%、南アフリカはEUのプラチナ需要の71%、さらにイリジウム、ロジウム、ルテニウムのプラチナ族金属の高い比率を供給しています。EUは、ハフニウムとストロンチウムの供給をEUの一企業に依存しています。
参考情報
- European Critical Raw Materials Act
- Internal Market, Industry, Entrepreneurship and SMEs-Critical raw materials