EU|ネット・ゼロ産業法の公布

The Net-Zero Industry Act (NZIA)

2024年06月28日、「欧州のネットゼロ技術製造エコシステムを強化するための措置の枠組みを確立する規則」(通称「ネット・ゼロ産業法(The Net-Zero Industry Act (NZIA) )」が公布されました。本規則は2024年06月29日より適用されています。

目的・適用範囲

■ ネット・ゼロ産業法の目的は、EUの気候目標及び気候中立性目標の達成に貢献しつつ、ネット・ゼロ技術とそのサプライチェーンの強靭性を確保するための製造能力を拡大することを含め、EUによるネット・ゼロ技術の確実かつ持続可能な供給へのアクセスを確保するための枠組みを確立することにあります。

■ その目的を達成するためのに、以下の具体的な目的が掲げられています。

-ネット・ゼロ技術とそのサプライ・チェーンの製造能力を特定し、規模拡大を支援することにより、競争を歪め、域内市場を分断する可能性のあるネット・ゼロ技術に関連する供給途絶のリスクを低減すること。

- CO2貯蔵サービスのEU市場を確立すること。

- 公共調達手続き、オークション、その他の公的介入を通じて、持続可能で強靭なネットゼロ技術への需要を奨励すること。

- アカデミーの支援を通じて技能を向上させ、質の高い雇用を確保・創出すること。

- ネットゼロ規制サンドボックスの創設、戦略的エネルギー技術計画運営グループを通じた研究・イノベーション活動の調整、革新的ソリューションの事前商業調達・公共調達の利用を通じて、イノベーションを支援すること。

- ネットゼロ技術に関連する供給リスクを監視し、緩和するEUの能力を向上させること。

■ 上記目的のために、本規則はネット・ゼロ技術に適用されます。また、一部の規定を除き、ネットゼロ技術のサプライチェーンの一部であり、技術的に実現可能な範囲で、産業プロセスのCO2排出率を大幅かつ恒久的に削減するエネルギー集約型産業の脱炭素化プロジェクトに適用されます。

「ネット・ゼロ技術」とは?

■ 本規則において、「ネット・ゼロ技術」は、第4条で特定されています。

(a) 太陽光発電技術、太陽熱発電技術(太陽熱利用技術を含む) (k) 水力発電技術
(b) 陸上風力および洋上再生可能技術 (l) 再生可能エネルギー技術(前述のカテゴリーに含まれないもの)
(c) 電池およびエネルギー貯蔵技術 (m) エネルギーシステム関連のエネルギー効率化技術(ヒートグリッド技術を含む)
(d) ヒートポンプおよび地熱エネルギー技術 (n) 非生物起源の再生可能燃料技術
(e) 水素技術(電解槽、燃料電池を含む) (o) バイオテクノロジーによる気候・エネルギー問題解決技術
(f) 持続可能なバイオガスとバイオメタン技術 (p) 脱炭素化のための革新的産業技術(前述のカテゴリーに含まれないもの)
(g) CCS技術 (q) CO2輸送・利用技術
(h) 送電用充電技術や送電網のデジタル化技術を含む送電網技術 (r) 風力推進および輸送用電気推進技術
(i) 核燃料サイクル技術を含む核分裂エネルギー技術 (s) 原子力技術(前述のカテゴリーに含まれないもの)
(j) 持続可能な代替燃料技術  

注目すべき内容

ベンチマーク

■ 第5条「ベンチマーク」では、欧州委員会と各加盟国が支援を通じて達成を目指す目標について規定されています。

- EUの2030年気候・エネルギー目標達成に必要な、対応する技術の当組合の年間導入ニーズの少なくとも40%をベンチマークとすること。

■ 支援対象となるのは、「ネット・ゼロ戦略プロジェクト」(→第13条など)であり、所定の基準を満たす「ネット・ゼロ技術製造プロジェクト」を「ネット・ゼロ戦略プロジェクト」として認定を受ける必要があります。

■ 規則には、そのための基準や許可手続き、報告、資金調達等について規定がなされています。

CO2注入・貯留技術

■ 本規則では、上記目標とは別に、CO2注入(injection)や貯留(storage)技術について、別途目標を定めています。(第20条)

- 2030年までに、少なくとも5,000万トンのCO2年間注入能力を許可された地中貯留地において達成すること。
- すべての貯留地は、最低 5 年間操業できるように設計されること。
- 欧州委員会は、2027年6月30日までおよびその後2年ごとに、EUの年間注入能力目標の達成に向けた進捗状況(注入能力に関連する市場の状況を含む)に関する報告書を欧州議会及び理事会に提出すること。

■ 上記はEUとしての向かう先を示す大目標であり、第21条で、加盟国に対しての具体的な要求が規定されています。その内容には、マッピングや見積、国家戦略や目標の策定などが含まれており、本規則はまさに枠組み的な役割を果たしています。

■ また、第24条に規定のあるように、将来的には、CO2貯留市場の発展が目的の一つに置かれているため、それに関連するデータ収集や報告の規定も置かれています。

■ 本規則内には事業者に対して直接要件を課す注目すべき内容は見られませんが、中長期的にEUの向かう先を見据える上で、押さえておきたい内容の一つです。

参考情報

■ Regulation (EU) 2024/1735 

■ The Net-Zero Industry Act: Accelerating the transition to climate neutrality

目次

第1章 主題、適用範囲および定義

第1条 主題
第2条 適用範囲
第3条 定義
第4条 ネット・ゼロ技術のリスト

第2章 ネット・ゼロ技術の製造を可能にする条件
第1節 ベンチマーク
第5条 ベンチマーク

第2節 行政および許可付与プロセスの合理化
第6条 単一の連絡窓口
第7条 情報のオンライン・アクセシビリティ
第8条 実施の加速化
第9条 許可付与プロセスの期間
第10条 環境アセスメント及び認可
第11条 計画作成
第12条 UNECE条約の適用

第3節 ネット・ゼロ戦略プロジェクト
第13条 選定基準
第14条 申請及び認定
第15条 ネット・ゼロ戦略プロジェクトの優先順位
第16条 ネット・ゼロ戦略プロジェクトの許可期間
第17条 ネット・ゼロ加速バレー
第18条 バレーにおける許可
第19条 資金調達の調整

第3章 CO2注入能力
第20条 CO2注入能力に関するEUレベルの目標
第21条 CO2貯留能力データの透明性
第22条 CO2輸送インフラ
第23条 認可された石油・ガス生産者の貢献
第24条 回収されたCO2市場に関する規制枠組み

第4章 市場へのアクセス
第25条 公共調達手続きにおける持続可能性とレジリエンスの貢献
第26条 再生可能エネルギー導入のためのオークション
第27条 革新的ソリューションの事前商業調達と公共調達
第28条 その他の公的介入
第29条 市場参入イニシアティブの調整

第5章 質の高い雇用創出のための技能向上
第30条 欧州ネット・ゼロ産業アカデミー
第31条 ネット・ゼロ技術産業における規制職業と職業資格の承認
第32条 欧州ネット・ゼロ・プラットフォーム及び技能

第6章 イノベーション
第33条 ネット・ゼロ規制サンドボックス
第34条 中小企業および新興企業に対する措置
第35条 戦略的エネルギー技術計画運営グループの設置
第36条 SETプラン運営グループの任務
第37条 SETプラン運営グループの構成及び機能

第7章 ガバナンス
第38条 ネット・ゼロ欧州プラットフォームの創設及び任務
第39条 プラットフォームの構造及び機能
第40条 ネットゼロ規制負担科学諮問グループ
第41条 国家エネルギー・気候計画

第8章 モニタリング
第42条 モニタリング

第9章 最終規定
第43条 権限の委任
第44条 委任の行使
第45条 専門委員会の手続き
第46条 評価
第47条 機密情報の取り扱い
第48条 規則(EU)2018/1724の改正
第49条 発効及び適用

附属書 ネット・ゼロ技術の生産に主に使用されると考えられる最終製品および特定コンポーネントのリスト

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