EU|EU理事会と欧州議会、各種法令案に関する相次ぐ暫定合意(2023年12月前半)

注目法令案に関する暫定合意が次々と・・・

2023年12月前半、EU理事会と欧州議会がそれぞれの修正案を携えて、第一読会審議における事前の暫定的な合意を目指す非公式会合において、いくつかの法令案に対する暫定合意がなされました。これらの暫定合意は、欧州議会本会議での承認・採択、そしてEU理事会での承認・採択がなされれば、署名・官報での公布がなされる流れとなります。

■ サイバーレジリエンス法案
■ エコデザイン規則案
■ 意匠保護指令案・意匠規則改正案
■ 建物エネルギー効率指令改正案
■ CLP規則改正案
■ 再生可能ガス・天然ガスおよび水素に関する域内市場規則案
■ 人工知能法案
■ 建設製品規則案
■ ヒト由来物質規則案
■ デューディリジェンス指令案
■ 製造物責任指令案
■ プラットフォーム業務の労働条件改善指令案 など

概要・背景

サイバーレジリエンス法案

■ 2022年09月15日、欧州委員会がサイバーレジリエンス法案を提出。法案は、既存のEUサイバーセキュリティの枠組みである、ネットワークおよび情報システムのセキュリティに関する指令(NIS指令)、EU全域における高水準のサイバーセキュリティ対策に関する指令(NIS2指令)、EUサイバーセキュリティ法を補完する位置づけのもの。

■ 同法案は、コネクテッドホームカメラ、冷蔵庫、テレビ、玩具などの製品が上市される前に安全であることを保証することを目的としている。原則、他の機器やネットワークに直接または間接的に接続されるすべての製品に適用されるが、医療機器、航空製品、自動車など、既存のEU規則でサイバーセキュリティ要件がすでに規定されている製品については例外がある。

■ 暫定合意では、欧州委員会案の主な内容は維持されている:
ー 製造者は、サイバーセキュリティリスク評価の提供、適合性宣言の発行、所管当局との協力といった一定の義務を果たさなければならない。
ー 製造者がデジタル製品のサイバーセキュリティを確保するための脆弱性対応プロセス、およびそのプロセスに関連する輸入者や流通業者などの経済事業者の義務
ー 消費者および企業ユーザーに対する、ハードウェアおよびソフトウェア製品のセキュリティに関する透明性を向上させるための措置

■ 他方で修正が加えられている点も:
ー 製造者による製品の期待寿命の決定: デジタル製品のサポート期間はその製品の期待寿命に対応するという原則は変わらないが、使用期間がより短いと予想される製品を除き、少なくとも5年間のサポート期間へ
ー 積極的に悪用された脆弱性やインシデントに関する報告義務:所管国家当局がそのような報告の最初の受領者となるが、EUのサイバーセキュリティ機関(ENISA)の役割強化

■ 発効から3年後に適用開始見込み

エコデザイン規則案

■ 2022年03月30日、欧州委員会はエコデザイン規則案を公表。従来のエコデザイン指令(ErP指令)に置き換わるものとして検討されている。

■ 規則案は、既存のエコデザイン指令を基礎としながらも、製品の耐久性、再利用性、アップグレード性、修理可能性、循環を阻害する物質の有無、エネルギー効率と資源効率、リサイクル材料含有、再製造、リサイクル、カーボンフットプリントと環境フットプリント、デジタル製品パスポートを含む情報要件など、新たな要件を提案している。

■ 暫定合意では、いくつかの内容の修正に合意がなされた:
ー 他の法律ですでに規制されている製品については、自動車を対象から除外
ー 欧州委員会に対し、委任法によって、製品の環境持続可能性を向上させるためのエコデザイン要求事項を採択する権限を与えており、産業界および各国の行政当局は、委任法の採択後18カ月以内に、新しいエコデザイン要求事項に適合することができるが、正当な理由がある場合には、欧州委員会は適用時期を早めることができるとした。
ー また、欧州委員会が、環境的に持続可能な製品の需給を促進するため、公共調達契約に関する強制的な要件を実施法によって採択できる内容にも合意。
ー 売れ残り商品の廃棄について、繊維製品および履物の廃棄を直接禁止することを導入。中小・零細企業はこの禁止措置が免除され、中堅企業は6年間の免除の恩恵を受ける。この禁止措置は、規則の発効から2年後に適用される。欧州委員会については、その他の売れ残り製品の廃棄に関する新たな禁止措置を、委任法によって導入する権限も与えられる内容へ。

意匠保護指令案・意匠規則改正案

■ 2022年11月28日、欧州委員会は、意匠規則改正と意匠保護指令の再制定(recast)を内容とする法案を公表。この2つは合わせて意匠保護パッケージとして検討されていた。20年近く経過したEUの意匠保護制度を近代化するための提案となっている。

■ 暫定合意では、スペアパーツ市場の自由化、EU意匠の登録・更新に必要な手数料の設定、文化遺産の意匠登録の禁止、指令の移管期間と規則の見直し期間の設定などが行われている。
ー 自動車のような複雑な製品の修理に使用されるスペアパーツの意匠保護の例外に関する新しい規定による「修理条項」の導入。修理条項の調和された経過措置期間として8年間を設定。

「修理条項」
> 複雑な製品の交換部品を意匠保護の対象から除外するもので、元の外観を回復するために使用されるが、修理の目的に限られ、交換部品の外観が元の部品と全く同じである場合に適用される。(事例として、「破損したドアや、車の外観を元のようにするために交換する必要がある車の壊れたライト」が紹介されている)
> この条項は、スペアパーツ市場を自由化し、より入手しやすい修理用スペアパーツをEU全域の消費者が入手できるようにすることを目的としている。

ー EU全域の意匠保護の対象地域が拡大されることを反映し、国内のみの保護制度と比較して高額となるEU全域の手数料引き上げへ。
ー 当局は意匠権の有効期限が近づいた場合、デザイナーに警告する義務を負う。

■ 加盟国が意匠の法的保護に関する指令の移行のために必要な措置を講じる期間を36ヶ月とすることに合意。EU意匠に関する規則は、発効後はEU全域に適用へ。

建物エネルギー効率指令改正案

■ 2021年12月15日、欧州委員会は、建物エネルギー効率指令(EPBD)の再制定(recast)案を提出。2050年までにゼロエミッションの建築ストックを実現するというビジョンを定めた「55年への適合」パッケージの一環をなす取り組みとして検討がなされてきた。

■ 既存のEPBDは2018年に最終改定され、新築建物と改修中の既存建物のエネルギー性能に関する最低要件を定めており、建築物の総合エネルギー性能の算出方法を定め、建築物のエネルギー性能認証を導入している。

■ 暫定合意では、いくつかの修正内容に合意がなされている:
ー 新築建築物、公共建築物、許可を必要とする改修工事を行う既存の非住宅建築物において、適切な太陽エネルギー設備の導入を確保する第9a条について合意。
ー 非居住用建築物の最低エネルギー性能基準(MEPS)に関して、2030年にはすべての非居住用建築物が最も性能の悪い16%を上回り、2033年には26%を上回る目標設定に合意。
ー 居住用建物の改修目標に関して、加盟国は、居住用建物ストックの平均エネルギー消費量を2030年に16%削減し、2035年には20~22%の範囲内で削減へ。エネルギー削減の55%は、最もパフォーマンスの悪い建物の改修によって達成されなければならない。
ー 化石燃料ボイラーを段階的に廃止する計画に関して、2040年までに化石燃料ボイラーを段階的に廃止することを視野に入れたロードマップを、全国建築物改修計画に盛り込むことで合意。

CLP規則改正案

■ 2022年12月19日、欧州委員会は、CLP規則の改正案を公表。化学物質の分類、表示および包装の基本的な規定を定めるCLP規則のうち、化学物質の表示に関する規定と、オンラインで販売される化学物質の必要情報を明確にすることを目的とした改正案となっている。

■ 提案は以下の内容を含んでいる:
ー 上市される化学物質の危険有害性に関する情報を、すべての関係者がより迅速かつ適切に提供できるようにすること。
ー よりシンプルで明確な表示・広告要件(化学物質ラベルの最小フォントサイズなど)を通じて、オンラインを含む化学物質の危険性を伝達すること。
ー 有害物質を特定するための手続きを迅速化し、必要な分類提案を行うために、(加盟国や産業界に加えて)欧州委員会に新たな権限を与えること。
ー 詰め替え可能な化学製品に関する具体的な規則を設け、消費者が家庭用化学製品など、ばら売りの化学製品を安全に購入・使用できるようにすること。
ー 

■ 暫定合意では、いくつかの内容に合意がなされている:
ー 複数の構成要素を持つ物質(MOCS)に関して、暫定協定には、化学的に修飾されていない植物または植物の部分のMOCSに関する5年間の適用除外の設定へ。期間終了後、欧州委員会は科学的報告に基づいて、これらの製品に関する新たな法規制を提案可能に。石油化学製品のようなその他のMOCSは、規制の対象となると説明されている。
ー 調和分類に関する規制の範囲について、デジタルマーケットプレイスでの購入を含むオンライン販売にも適用されることを明確化。
ー 化学製品へのラベル表示については、サプライヤーにとってはデジタルラベルも選択肢のひとつへ。また、特に視覚に障害のある人々にとって、ラベルをより明確で読みやすくするための措置も導入される。
ー 特定の製品については、サプライヤーはデジタルデータのみを提供することができるが、消費者は常に製品情報の物理的コピーを要求することができる。 など

再生可能ガス・天然ガスおよび水素に関する域内市場規則案

■ 2021年12月15日、欧州委員会は水素・ガス市場の脱炭素化パッケージの一部となる規則案を公表。2030年までに温室効果ガス排出量を少なくとも55%削減するというEUの目標と、2050年までに気候ニュートラルになるというEUの目標に、EUの気候・エネルギー法を整合させることを目的とした「55年への適合」パッケージの第2次提案の一部という位置づけで検討されていた。

■ 規則案の目的は、は、再生可能な低炭素ガス、特に水素とバイオメタンのエネルギーシステムへの浸透を促進することにある。

■ 暫定合意では、いくつかの内容に合意がなされている:
ー 水素セクターの新たな組織として、EU水素ネットワーク事業体(ENNOH)設立へ。ENNOHは、既存の欧州ガス送電系統運用者ネットワーク(ENTSOG)および欧州電力送電系統運用者ネットワーク(ENTSOE)とは独立した事業者となるが、3つのセクター間の相乗効果と協力が期待されている。
ー エネルギー危機の際に採用されたガスの需要集約/共同購入メカニズムを拡大することに合意がなされたが、ガス事業者の参加は完全に自主的なものでなければならないとされた。エネルギー共同体諸国に設立されたガス事業者は、購入者として同メカニズムに参加できるが、ロシアやベラルーシからの供給は除外される。
ー また、欧州水素バンクの下で欧州委員会が実施する業務を促進することを目的として、水素の市場開発を支援する自発的なメカニズムを創設することに合意。
ー ロシアまたはベラルーシからの液化天然ガス(LNG)を含む天然ガスの供給に制限を設けることを加盟国に認める規定の盛り込み。
ー 二国間協定が締結されていない危機の場合に連帯原則を運用するための既定規定を設けることで合意。事後的な補償の見直しのための国境を越えた調停メカニズムの設置、保護された顧客による不要不急の消費の自発的削減、国境を越えたフローのセーフガードも含まれている。
ー 加盟国による連帯要請に基づいて、直接接続していない他の加盟国も市場ベースの措置を適用してガス量を提供できる自主的なメカニズムを定めている。
ー ネットワーク料金に関して、両機関は、水素市場に関しては、すべての国家規制当局が近隣の国家規制当局と料金設定方法案について協議し、エネルギー規制当局協力機構(ACER)に提出しなければならない内容に合意。
ー バイオメタンの生産量を増やす方針・内容を確認。

人工知能法案

■ 2021年04月、欧州委員会案は人工知能法案を公表。同提案は、リスクベースのアプローチに従い、法的確実性を確保することを目的とした、AIに関する統一的かつ水平的な法的枠組みを含み、検討がなされてきた。

■ 暫定合意では、いくつかの内容に合意がなされている:
ー 将来的にシステミック・リスクを引き起こす可能性のある、インパクトの大きい汎用AIモデル、およびリスクの高いAIシステムに関する規定
ー EUレベルで一定の執行権限を持つガバナンスシステムの見直し
ー 禁止リストを拡大するが、セーフガードを条件として、法執行機関による公共空間での遠隔生体認証(remote biometric identification)の利用を認める内容へ
ー 高リスクのAIシステムの導入者は、AIシステムを使用する前に基本的人権の影響評価を実施する義務を負う。
ー AIシステムの定義をOECD提案アプローチと整合
ー 限定的なリスクしか示さないAIシステムには、非常に軽度の透明性義務が課される。
ー 高リスクAIの認可の要件は、より技術的に実現可能で、例えばデータの品質や、高リスクのAIシステムが要件に適合していることを証明するために中小企業が作成すべき技術文書など、関係者にとって遵守の負担が少ないように明確化され、調整されている。
ー AIシステムは複雑なバリューチェーンを通じて開発・流通されるため、バリューチェーンにおける様々な関係者、特にAIシステムのプロバイダーとユーザーの責任と役割分担を明確にする変更が盛り込まれている。
ー AI法に基づく責任と、関連するEUのデータ保護法や分野別法などの他の法律の下ですでに存在する責任との関係も明確化。
ー 例えば、認知行動操作、インターネットやCCTV映像からの顔画像の非標的スクレイピング、作業場や教育機関における感情認識、ソーシャルスコアリング、性的指向や宗教的信条などの機密データを推測するためのバイオメトリクス分類、個人に対する予測的取り締まりの一部のケースなど、一部の用途のAIは禁止されている。
ー 公にアクセス可能な空間におけるリアルタイムの遠隔生体認証システムの使用に関して、その使用が法執行目的に厳密に必要であり、それゆえ法執行当局が例外的にそのようなシステムの使用を許可されるべき目的を明確化。
ー AIシステムがさまざまな目的に使用できる場合(汎用AI)や、汎用AI技術がその後別のリスクの高いシステムに統合される場合を考慮し、新たな規定を追加し、汎用AI(GPAI)システムの特定のケースにも対処へ。GPAIモデルに関する新しい規定と、EUレベルでのその執行の必要性が明らかになったことを受け、欧州委員会内にAI事務局が設置され、これらの最先端のAIモデルを監督し、基準やテスト手法の育成に貢献し、全加盟国で共通のルールを執行へ。
ー ビデオ、テキスト、画像の生成、横文字での会話、計算、コンピュータコードの生成など、幅広い特徴的なタスクを有能に実行できる大型システムである基盤モデルについても、具体的なルールが合意。
ー 基盤モデルは市場に投入される前に特定の透明性義務に従わなければならず、「インパクトの大きい」基盤モデルには、より厳しい制度の導入へ。
ー 公的機関である高リスクAIシステムの特定のユーザーは、EUの高リスクAIシステム用データベースへの登録も義務付けられる。
ー 新たな規定として、感情認識システムの利用者が、そのようなシステムにさらされている場合、自然人に通知する義務も導入。
ー 罰金は、違反企業の前会計年度における全世界の年間売上高に対する割合、またはあらかじめ定められた金額のいずれか高い方という内容へ。
>禁止AI用途の違反に対しては3500万ユーロ(7%)、AI法の義務違反に対しては1500万ユーロ(3%)、不正確な情報の提供に対しては750万ユーロ(1.5%)
※中小企業や新興企業がAI法の規定に違反した場合の行政罰金について、より比例した上限を設定へ

■ 全体的な適用は、発効から2年後に適用開始の内容で合意されているが、個別の条項に適用時期の指定があるものもある。

建設製品規則案

■ 2022年03月30日、欧州委員会は規則案を公表。同規則案は、建設製品に関するEUの調和規定を定め、市場での自由な移動に対する障害を取り除き、デジタル・ソリューションを通じて行政負担を軽減し、これらの製品が循環経済の原則と新しい建設技術に沿ったものであることを保証するものであると説明されている。

■ 暫定合意では、いくつかの内容に合意がなされている:
ー 建設製品のデジタル・パスポートの作成を規定し、建設製品のグリーンな公共調達のための将来の手続きのための権限を規定。欧州委員会は、委任法によって、この製品パスポートシステムの機能と要件を定める権限を与えられる。
ー 標準化手続きの長期的な遅れに対処し、問題が発生した場合に欧州委員会が対応できる可能性を高めるため、特定の条件下で、欧州委員会が実施法を通じ、独自に整合化された技術的仕様を採択できるという予備的解決策に合意。
ー 欧州委員会は、環境的に持続可能な製品の供給と需要にインセンティブを与えるため、建設製品の公共調達に関する委任法を通じて、環境持続可能性に関する義務的な最低要求事項を定める権限を与えられる。加盟国が建設製品に対する環境要件の導入を希望する場合、建設工事に関する契約を含め、建設製品を含むすべての契約に適用することができる。

■ 全体的な適用は発効日から12ヶ月後に適用。ただし、従来法からの移行内容については、新規則の発効日から15年間(2039年まで)、新規則への移行期間を設ける内容で合意。

ヒト由来物質規則案

■ 2022年07月、欧州委員会はヒト由来物質(SOHO)の安全性と質をさらに高めることを目的とする規則案を公表。強固な欧州保健連合(EU)を構築するための活動の一環として導入された新しい規定は、血液、組織、細胞、母乳、微生物叢などの物質を提供したり、提供を受けたりする際に、市民がより確実に保護されるようにする内容を含み、検討がなされてきた。

■ 規則案の内容には次のような内容が含まれる:
ー EU規則の適用範囲を拡大し、糞便微生物叢やヒト母乳など、固形臓器を除くヒト由来のすべての物質を対象へ
ー SOHO療法のドナーとレシピエント、および医療補助生殖から生まれた子どもの保護を強化する
ー SOHOの安全性と品質に影響を与える可能性のある活動を行うすべての団体の登録
ー 国家監視を強化するためのリスクに応じた措置、および国家当局に対するEUの支援措置(研修やITなど)

■ 同規則が採択され、全加盟国で実施されれば、2つの指令(血液および血液成分については2002/98/EC、組織および細胞については2004/23/EC)およびその実施法に定められた安全性と品質に関する規定に取って代わることになる見込み。

デューディリジェンス指令案

■ 2022年02月23日、欧州委員会は、企業の持続可能性デュー・ディリジェンスに関する指令(CSDDD)案を提出。同提案は、大企業に対し、自社の事業、子会社の事業、ビジネスパートナーの事業に関して、人権と環境に及ぼす実際および潜在的な悪影響に関する義務を課す内容となっており、検討がなされてきた。

■ 暫定合意では、いくつかの内容に合意がなされている:
ー 違反した企業の責任を明確にし、様々な罰則をより明確に定義し、企業が尊重すべき権利と禁止事項のリストを修正
ー 従業員500人以上、全世界での純売上高が1億5000万ユーロを超える大企業が指令の適用範囲へ
ー EU域外の企業については、指令の発効から3年後に、EU域内で1億5,000万ユーロ以上の純売上高を計上している場合に適用
ー 欧州委員会は、指令の対象となる非EU企業のリストを公表しなければならない。
ー 金融サービスは一時的に指令の適用範囲から除外されるが、十分な影響評価に基づき、将来的に金融川下セクターを含めることができるよう、見直し条項が設けられる。
ー 影響に関係する人々が損害賠償を請求できる期間を5年間と定め、証拠開示、差し止め措置、請求者の訴訟費用を制限している。
ー ビジネスパートナーの一部による環境または人権への悪影響を確認した企業は、これらの影響を防止または終息できない場合、それらのビジネス関係を終了しなければならないとする規定を含む。
ー 違反した場合に課される罰金を支払わない企業に対しては、いくつかの差し止め措置が盛り込まれ、企業の売上高を考慮して罰金(すなわち、最低でも企業の売上高の最大5%)が課される。 など

製造物責任指令案

■ 2022年09月、欧州委員会は、製造物責任指令の改正案を公表。EUの製造物責任制度は、製品の欠陥(例えば、ヘアードライヤーの過熱や洗濯機の水漏れ)によって被った身体的損害や財産的損害を補償するために創設されたものであると説明されている。

■ 改正案は、多くの製品がデジタル機能を持ち、経済がますます循環型になりつつあることをよりよく考慮するため、数十年前に制定された現行の民事責任の規定を更新するものとされている。

■ 改正案に含む内容:
ー 「製品」の定義がデジタル製造ファイルやソフトウェアにまで拡大
ー 商業活動の範囲外で開発または提供されたフリーソフトウェアやオープンソースソフトウェアは指令の範囲から除外
ー オンラインプラットフォームが、製品を提示したり、製品の販売のための取引を可能にしたりして、その製品がオンラインプラットフォーム自体、またはその権限や管理下で行動する取引業者によって提供されたものであると一般消費者に信じさせるような方法をとった場合、オンラインプラットフォームも製品の欠陥について責任を問われる可能性がある内容で合意
ー 元の製造者の管理外で製品が大幅に変更され、市場で利用可能にしたり、再び使用開始したりする場合、大幅な変更を行った企業や個人は、変更された製品の製造者として責任を負うべきであると規定
ー 欠陥製品によって損害を被った自然人には補償を受ける権利があることにも合意。このような損害には、医学的に認められた精神的健康への損害を含む死亡または人身傷害、財産の損害または破壊、データの破壊または不可逆的な破損が含まれる。
ー 補償を受ける権利は、国内法で補償可能な限りにおいて、損害によって生じた物質的損失と損害によって生じた非物質的損失を対象。
ー 多くの製品が技術的に複雑化しているため、加盟国は、損害賠償を請求する被害者が、その請求を立証できるよう、製造者の手元にある関連証拠にアクセスできるようにしなければならない。
ー EU域外の製造者から購入した製品について、それらの製品に欠陥があると証明された場合、消費者が受ける保護のレベルは変わらない。製品または部品の製造者がEU域外に設立されている場合、欠陥のある製品または部品の輸入者、製造者の認定代理人、または最後の手段としてフルフィルメント・サービスプロバイダー(通常、製品の倉庫保管、梱包、発送を請け負う事業者)が損害賠償責任を問われる可能性があると規定。
ー 立証責任については、損害賠償請求者(例;損害を受けた消費者)が、特に技術的または科学的に複雑な事案のために、製品の欠陥またはその欠陥と損害との因果関係を証明することが過度に困難な場合、裁判所は、損害賠償請求者が製品の欠陥の可能性またはその欠陥が損害の原因となる可能性が高いことのみを証明すればよいと決定することができる。

プラットフォーム業務の労働条件改善指令案

■ 2021年12月、欧州委員会はプラットフォーム労働者の労働条件を改善する指令案を公表。

■ デジタル・プラットフォームで働く人々の正しい雇用形態の決定を支援することと、作業場におけるアルゴリズム・システムをより透明かつ公正に使用することを促進することの2点を主な改善点としている。
ー プラットフォームを通じて働く人々の雇用状態を正しく判断し、アルゴリズム管理(つまり、管理機能を支援または代替する自動化システム)の透明性と公平性を促進するための措置を規定。
ー デジタル労働プラットフォームを通じて働く人々が、実際の労働形態に対応する雇用形態、およびそれに関連する権利、義務、給付の恩恵を受けやすくする。
ー プラットフォームが雇用者として適格かどうかを判断するための特定の指標とともに、雇用関係の法的推定を定めている。プラットフォームがこれらの指標のうち2つを満たせば、「雇用者」とみなされる。
ー プラットフォームまたは影響を受ける人は、プラットフォームを通じて働く人または特定のカテゴリーの人が自営業者として正しく分類されているという証拠を提出することで、この推定に異議を唱えることができる。
ー プラットフォームとプラットフォームを通じて働く人々に法的確実性をもたらし、訴訟と行政負担を軽減する。
ー デジタル労働プラットフォームにおける監視と意思決定における自動システムの使用を管理する新しい規定を設定。これにより、アルゴリズム管理における透明性と説明責任の向上が促進され、労働条件に影響を与える決定について人々が認識し、異議を唱えることができるようになる。
ー 労働条件の遵守を確保するために自動化システムを人間が監視することを義務付け、アカウントの解約や停止などの自動化された決定に異議を唱える権利を提供している。
ー デジタル労働プラットフォームは、プラットフォームを通じて働く人々がプラットフォームにログインしていない間は、個人データを回収することができなくなる。
ー 誰かの感情や心理状態に関するデータを処理したり、人工知能ツールを使って労働者が労働組合に加入したりストライキを起こしたりするかどうかを予測したりすることは許されない。
ー プラットフォームを通じて働く人々は、あるプラットフォームから別のプラットフォームへデータを移転する権利を保持し、データポータビリティとプラットフォーム間のシームレスな移動の可能性を確保する。
ー 特に国境を越えた状況において、プラットフォームが労働を行う国において労働を申告することを義務付けることで、プラットフォーム労働の執行と追跡可能性を強化する。
ー プラットフォームが業務を申告し、その活動およびそのために働く人々に関する情報を国家当局に提供する義務を規定。
ー アルゴリズム管理に関する決定について、プラットフォーム労働者の代表者に情報を提供し、協議するという要件を導入。
ー プラットフォームが仲介会社の利用を選択した場合でも、プラットフォームを通じて働く人々に対して同レベルの保護を保証する。このような場合、加盟国は責任メカニズムを確立し、適切な場合には連帯責任制度を含め、効果的な救済へのアクセスを確保しなければならない。

以上、12月前半に暫定合意がなされたもののうち、当社が注目する法令案について紹介しました。このほかにも、欧州メディア自由法、司法裁判所規程の改正、EUの制限的措置の違反に対する刑事罰と罰則の調和規定、資産回収・没収強化規定、EUの電力市場設計(EMD)改革についての暫定合意動向も確認されています。

参考情報

※ 暫定合意テキストの確認あるいは和訳相談等、調査相談、講演相談等についてはお問い合わせください
※ 以下には欧州委員会案もしくは理事会修正案、あるいは関連ページを紹介しています。

■ Regulation on harmonized cybersecurity requirements for products with digital elements (cyber resilience act), Commission proposal, 15 September 2022
■ Ecodesign – Commission Proposal
■ General approach directive on the legal protection of designs (recast)
■ General approach on regulation amending Council Regulation (EC) No 6/2002 on Community designs and repealing Commission Regulation (EC) No 2246/2002
■ General approach on the Energy Performance of Buildings Directive
■ CLPーCommission’s proposal
■ General approach on the regulation on the internal markets for renewable and natural gases and for hydrogen
■ Artificial intelligence act, Council’s General Approach, 6 December 2022
■ Construction productーCommission proposal
■ Proposal for a Regulation on substances of human origin
■ Due diligenceーCouncil negotiating mandate
■ Liability for defective products – European Commission
■ Proposed directive to improve working conditions for platform workers

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