2024.11.23
米国|TSCA改正-DecaBDE規則およびPIP(3:1)規則の更新
PIP(3:1)の段階的禁止事項の追加、川下への通知要件に要注意
2024年11月19日、米国連邦官報にて、有害物質規制法(TSCA)に基づいて設けられている物質別のリスク管理規則のうち、DecaBDEとPIP(3:1)に関する規則を改正する内容が公示されました。更新内容は2025年01月21日より発効しますが、個別に適用開始日が設けられている内容もあるため、個々に確認が必要です。
DecaBDE規則の更新
■ 改正条項:§ 751.405
■ 改正内容:
- (a)(1)および(a)(2)(ii)を改訂
- (a)(2)(vi)を追加
- (b)および(c)(1)(i)および(iii)を改訂
- (d)から(g)を追加
新旧比較
1.(a)(1)の改訂
旧 | (1) 全般 (i) 本セクション(a)(2)および(b)に定める場合を除き、すべての者は、2021年03月08日以降、DecaBDEまたは当該物質を含有する製品または成形品のすべての製造および加工は禁止され、2022年01月06日以降、DecaBDEまたは当該物質を含有する製品または成形品のすべての商業上の流通を禁止される。 |
新 |
(1) 全般 (ii) 本サブパートに別段の定めがない限り、DecaBDEが製品または成形品に意図的に添加されていない場合、本サブパートの禁止事項および制限要件は、0.1 wt%未満の濃度のDecaBDEを含有する製品または成形品には適用されない。 |
コメント | ■ 従来は(1)(ii)の適用除外規程が設けられていませんでした。非意図的添加の場合で、且つ、微量の場合の適用除外になります。 |
2.(a)(2)(ii)の改訂
旧 | (a)(2) (ii) 2023年01月06日以降、すべての者は、原子力発電施設の電線およびケーブルの絶縁材に使用されるDecaBDE、およびDecaBDEを含む電線およびケーブルの絶縁材のすべての加工および商業上の流通が禁止される。 |
新 |
(a)(2) |
3.(a)(2)(vi)を追加
旧 | なし |
新 | (a)(2) (iv) ワイヤーおよびケーブルの耐用年数終了後、すべての者は、原子力発電施設(試験研究炉を含む)用のDecaBDE含有ワイヤーおよびケーブル絶縁体のすべての加工および商業上の流通が禁止される。 |
4.(b)の改訂
旧 | (b) 禁止事項からの除外 製品または成形品、ならびに再生プラスチックから製造されたDecaBDE含有製品または成形品からのDecaBDE含有プラスチックのリサイクルのための加工および商業上の流通で、リサイクルまたは生産工程中に新たなDecaBDEが添加されないものは、本セクション(a)の禁止事項の対象とはならない。 |
新 | (b) 禁止事項からの除外 製品または成形品からのDecaBDE含有プラスチックの商業上の流通およびリサイクル、ならびにそのような再生プラスチックから作られたDecaBDE含有製品または成形品の加工および商業上の流通であって、リサイクルまたは生産工程中に新たなDecaBDEが添加されないものは、本セクション(a)の禁止事項の対象とはならない。 |
5.(c)(1)(i)の改訂
旧 | (c) 記録保持 (1) (i) これらの記録は、記録が作成された日から3年間保存しなければならない。 |
新 | (c) 記録保持 (1) (i) これらの記録は、記録が作成された日から5年間保存しなければならない。 |
コメント | ■ (c)(1)は、DecaBDEや含有製品・成形品の製造、加工および商業的流通を行う者に対して、本セクションの遵守に関係する書類や業務記録の保持を求める内容です。 |
6.(c)(1)(iii)の改訂
旧 | (c) 記録保持 (1) (iii) これらの記録は、要請に応じて30暦日以内にEPAに提供されなければならない。 |
新 | (c) 記録保持 (1) (iii) これら記録は、要請に応じてEPAに提供されなければならない。 |
コメント | ■ 要請後の提出期限の明記がなくなりました。 |
7.(d)の追加
旧 | なし |
新 |
(d) 規制区域における標識 (1) 2025年01月21日以降、DecaBDEを含有するプラスチック製出荷パレット(plastic shipping pallets)を処理するすべての者(リサイクルをする者を含む)は、規制区域へのすべての入口に標識を設置しなければならない。 (2) 各標識は、以下の文章を、はっきりと、目立つように、必要に応じて多言語で、読みやすい文字サイズで表示しなければならない: Decabromodiphenyl ether (decaBDE) (CASRN 1163-19-5), a chemical that has been identified as a persistent, bioaccumulative, and toxic (PBT) chemical by the U.S. Environmental Protection Agency, may be present in this regulated area. All persons in this regulated area who recycle existing plastic shipping pallets that contain decaBDE are required to wear personal protective equipment, including respiratory protection that is at least as protective as a NIOSH-approved N95 respirator with an assigned protection factor (APF) of 10 and dermal protection of gloves that are chemically resistant to decaBDE, per regulations at 40 CFR 751.405(e). |
8.(e)の追加
旧 | なし |
新 |
(e) 労働者保護 (1) 適用性 (2) 規制区域 ※割愛 (3) 呼吸器保護 ※割愛 (4) 皮膚保護 ※割愛 (5) 労働者保護記録 ※割愛 (6) 除外規程 ※割愛 |
コメント | ■ 他の物質に関するリスク管理規則にも登場する労働者保護プログラムが導入されました。規制区域の設定や呼吸器および皮膚のばく露保護の取り組み、関連記録の保持要件が設けられています。 |
9.(f)の追加
旧 | なし |
新 |
(f) DecaBDEを含有する製品および成形品の輸出届出 原子力発電施設(試験研究炉を含む)用のDecaBDE含有電線およびケーブルを輸出しようとするすべての者は、TSCA第12条(b)および40 CFR Part 707のサブパートDの規定に基づき、EPAに届け出る必要がある。 40 CFR 707.60(b)の適用除外は、原子力発電施設用のデカBDE含有電線およびケーブルには適用されない。 |
10.(g)の追加
旧 | なし |
新 |
(g) 水域への放出の禁止 2025年01月21日以降、すべての者はDecaBDEおよび当該物質含有製品の製造、加工および商業上の流通においてDecaBDEを水域に放出することが禁止され、DecaBDEの放出を防止するために適用されるあらゆる規則に従うことが要求される。 |
PIP(3:1)規則の更新
■ 改正条項:§ 751.407
■ 改正内容:
- (a)(1)を改訂
- (a)(2)の序文を追加
- (a)(2)(iii)を改訂
- (a)(2)(iv)から(xi)を追加
- (b)(1)(ii)、(iii)および(vii)を改訂
- (b)(1)(viii)および(b)(2)を追加
- (d)(1)および(3)、ならびに(e)(3)および(4)を改訂
- (e)(5)と(f)を追加
新旧比較等
1.(a)(1)の改訂
旧 | (a) 全般 (1) 本セクションの(a)(2)および(b)に規定される場合を除き、2021年03月08日以降、すべての者は、PIP(3:1)を含有する製品または成形品を含め、PIP(3:1)のすべての加工および商業上の流通が禁止される。 |
新 |
(a) 全般 本セクションの(a)(2)および(b)に規定される場合を除き、2021年03月08日以降、すべての者は、PIP(3:1)を含有する製品または成形品を含め、PIP(3:1)のすべての加工および商業上の流通が禁止される。 本サブパートの(a)(2)および(b)に規定される場合を除き、PIP(3:1)が製品または成形品に意図的に添加されたものでない場合、本サブパートの禁止事項および制限要件は、0.1 wt%未満の濃度でPIP(3:1)を含有する製品又は成形品には適用されない。 |
コメント | ■ 従来は適用除外規程が設けられていませんでした。非意図的添加の場合で、且つ、微量の場合の適用除外になります。 |
2.(a)(2)の序文の追加
旧 | なし |
新 |
PIP(3:1)および当該物質を含む製品および成形品の特定の用途に対する段階的禁止 本セクションの(b)に記載された活動や、本セクションに記載された、より長期的な期限を持つ別の段階的禁止事項が存在する場合を除き: ~ |
コメント | ■ 「~」の部分には、従来より、2025年01月06日以降の接着剤や封止剤用途の禁止規程などが含まれています。 |
3.(a)(2)(iii)の改訂
旧 |
(iii) 2024年10月31日以降、本セクションの(a)(2)(ii)および(b)に規定される場合を除き、すべての者は、成形品に使用するためのPIP(3:1)のすべての加工および流通、ならびにPIP(3:1)を含む成形品の全ての加工が禁止される。 |
新 |
(iii) 2024年10月31日以降、すべての者は、成形品に使用するためのPIP(3:1)のすべての加工および流通、ならびにPIP(3:1)を含む成形品の全ての加工が禁止される。 2026年10月31日以降、すべての者はPIP (3:1)を含む成形品の商業上の流通が禁止される。 |
コメント | ■ 過去に何度も改正が繰り返されてきた部分です。当初は(iii)自体が設けられておらず、その後、2022年03月08日の適用開始日で禁止事項が追加されました。しかし、その後、2024年10月31日以降の適用開始日に改正がなされ、今回、2026年10月31日以降の含有成形品の流通禁止の規程が追加されています。 |
4.(a)(2)(iv)から(xi)を追加
旧 | なし |
新 |
(iv) 2039年11月21日以降、すべての者は、潤滑油およびグリースに使用する、PIP(3:1)のすべての加工および商業上の流通、ならびにPIP(3:1)含有製品の製造、加工および商業上の流通、ならびにPIP(3:1)含有潤滑油およびグリースの製造、加工および商業上の流通が禁止される。 (v) 2039年11月21日以降、すべての者は、電動大型機械(heavy motorized machinery)を含む新規車両の部品に使用するPIP(3:1)、それらの部品に使用するPIP (3:1)含有製品の製造、加工、商業上の流通、およびそのような新規車両のPIP(3:1)含有部品の製造、加工、流通が禁止される。 (vi) 2054年11月19日以降、すべての者は、電動大型機械を含む車両の交換部品に使用するPIP(3:1)の加工および商業上の流通、ならびにPIP(3:1)含有製品の製造、加工および商業上の流通、ならびにそのような車両のPIP(3:1)含有交換部品の製造および加工が禁止される。 (vii) 2054年11月19日以降、すべての者は、新型航空機用部品に使用するPIP (3:1)のすべての加工および商業上の流通、ならびにPIP(3:1)含有製品の製造、加工および商業上の流通、ならびにそのような車両用のPIP(3:1)含有部品の製造および加工が禁止される。 (viii) 航空宇宙車両の耐用年数終了後、すべての者は、航空宇宙車両の交換部品に使用するPIP(3:1)の商業上の加工および流通、ならびにPIP(3:1)含有製品の製造、加工および商業上の流通、ならびに当該車両のPIP(3:1)含有交換部品の製造および加工が禁止される。 (ix) 2029年11月19日以降、すべての者は、FIFRAに基づき登録され、国防総省の仕様要件を満たす海洋防汚コーティング製品に使用するPIP(3:1)の加工および商業上の流通、ならびにPIP(3:1)含有製品の製造、加工および商業上の流通が禁止される。(当社注:FIFRA-連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法) (x) 2034年11月20日以降、すべての者は、半導体産業を含む新規製造装置、新規暖房、換気、空調、冷蔵、給湯装置、新規発電装置、新規実験装置、新規業務用電子機器の部品に使用されるPIP(3:1)の加工、商業上の流通、およびPIP(3:1)含有製品の商業上の製造、加工、流通、およびそれらの装置用のPIP(3:1)含有部品の製造、加工、流通が禁止される。 (xi) 製造装置および実験装置の耐用年数終了後、すべての者は、交換部品に使用するPIP(3:1)の加工および商業上の流通、ならびにPIP (3:1)含有製品の製造、加工および商業上の流通、ならびに製造装置および実験装置用のPIP(3:1)含有交換部品の製造および加工が禁止される。 2049年11月19日以降、すべての者は、交換部品に使用するPIP(3:1)の加工および商業上の流通、およびPIP(3:1)含有製品の製造、加工、商業上の流通、および暖房、換気、空調、冷蔵、給湯機器用、発電機器用、業務用電子機器用のPIP(3:1)含有交換部品の製造、加工および流通が禁止される。 2031年11月19日以降、すべての者は、交換部品に使用するPIP(3:1)の商業上の加工および流通、ならびにPIP(3:1)含有製品の製造、加工および商業上の流通、ならびに消費者用電子機器用のPIP(3:1)含有交換部品の製造および加工が禁止される。 |
コメント | ■ 段階的禁止事項が数多く追加されています。一部は(b)の除外規程に含まれていた内容が移ってきた形になっています。(潤滑剤やグリースなど) |
5.(b)(1)(ii)、(iii)および(vii)を改訂
■ (b)(1)は(a)に定める加工および商業上の流通に関する禁止事項の適用除外項目を定める部分です。
(ii)は 航空宇宙用およびタービンエンジン用の潤滑剤およびグリースについて、(iii)は回路基板およびワイヤーハーネス(端子・ヒューズカバー、ケーブルスリーブ、ケーシング、コネクター、テープを含むがこれらに限定されない)について、(vii)はPIP(3:1)を含む製品または成形品からリサイクルまたは再使用されたプラスチック製の最終製品または成形品についての内容となっています。
6.(b)(1)(viii)および(b)(2)を追加
■ 同じく(a)に定める禁止事項の適用除外項目を定める部分に、(viii)の「PIP(3:1)が修理やメンテナンスの目的で新たに添加されていない成形品」が追加
■ (b)(2)は商業上の流通に関する禁止事項の適用除外項目を定める部分です。次の対象は(a)に定める流通禁止事項の適用外となります。
(a)(2)(v)から(viii)の要件を満たす車両、(a)(2)(x)から(xi)の要件を満たす機器のPIP(3:1)含有部品、および当該部品を含む車両と機器 |
7.(d)(1)および(3)、ならびに(e)(3)および(4)を改訂、(e)(5)の追加
旧 |
(d) 記録保持 ・・・ (3) これらの記録は、要請に応じて30暦日以内にEPAに提供されなければならない。 |
新 |
(d) 記録保持 ・・・ (3) これら記録は、要請に応じてEPAに提供されなければならない。 |
コメント | ■ DecaBDEに関する規則更新と同様、記録保持の期間と要請に対する提出期限についての更新となっています。 |
旧 |
(e) |
新 |
(e) |
コメント | ■ (e)は川下への情報伝達の要件ですが、遵守期限が追記されています。(i)~(iii)の改訂は割愛 |
旧 | (e) (4) 本セクション(e)の川下への通知要件は、(b)(1)(vi)および(vii)に記載の活動には適用されない。 |
新 |
(e) (5) 本セクション(e)の川下への通知要件は、(b)(1)(vi)および(vii)に記載の活動には適用されない。 |
8.(f)を追加
■ DecaBDEに関する規則更新と同様、労働者保護プログラムが導入されました。規制区域の設定や呼吸器および皮膚のばく露保護の取り組み、関連記録の保持要件が設けられています。
参考情報
有害物質規制法(TSCA)とは?
米国の「有害物質規制法」、通称「TSCA」は、化学物質の管理・規制に関する米国の国レベルの基本的な法令の一つです。日本の化審法、EUのREACH規則と並べて、あるいは比較して言及されたりもします。 合衆国法典では第15編、第53章に収載されており、全部で6つの大項目から構成されています。このうち、日本の事業者が関心が高く、よく相談が持ち込まれる大項目は、「有害物質の管理」、「複合木材製品のホルムアルデヒド基準」です。
目次
SUBCHAPTER I 有害物質の管理 SUBCHAPTER II アスベスト有害性緊急対応 SUBCHAPTER III 屋内ラドン削減 SUBCHAPTER IV 鉛ばく露低減 SUBCHAPTER V 健康的な高いパフォーマンスの学校 SUBCHAPTER VI 複合木材製品のホルムアルデヒド基準
注目される制度
TSCAのもとでは様々な規制が敷かれていますが、事業者からの相談・問い合わせが多く、注目度が高い制度には次のものが例として挙げられます。
新規化学物質の製造前届出制度
■ 第5条(§2604)(a)(1)に基づき、新規化学物質の製造・輸入・加工については、90日前までにEPAへの届出が必要
化学物質の試験制度
■ 第4条(§2603)に基づき、EPAが人の健康や環境へ不当なリスクをもたらすと判断した場合には、化学物質や混合物の製造、商業流通、加工、使用、廃棄、またはそのような活動の組み合わせに関連して、関連事業者に試験の実施を要求することができる。関連規則に基づき、規則や同意命令などの形で発出される。
重要新規利用規則(SNUR)
■ 第5条(§2604)(a)(2)に基づき、化学物質の使用が、通知が必要とされる重要新規利用(Significant New Use)であるかどうかをEPAが判断し、必要に応じて規則を設ける。特定されたものについて、製造者・輸入者や加工業者は、当該新規利用を開始する90日前までに関連規則に基づいた通知(SNUN)が必要とされる。
化学物質のリスク評価制度に基づく個別の規制
■ 第6条(§2605)に基づき、EPAが化学物質または混合物の製造、加工、商業流通、使用、廃棄、またはそのような活動の組み合わせが、人の健康や環境へ不当なリスクをもたらすと判断した場合には、規制を定める規則の検討を行う。
既存化学物質の管理制度
■ 第8条(§2607)に基づく記録保持・報告要件は、インベントリー制度としても知られている。EPAが化学物質についての情報をインベントリーとして管理するために、事業者には情報の提出や更新が求められている。
輸出入規制
■ 輸出(§2611)や輸入(§2612)についても規制が敷かれているが、特に注目されるのは、輸入時における「TSCA証明」である。詳細は規則で規定されているが、輸入化学物質が TSCA に準拠していることを証明する方法(positive certification)と、TSCAの適用外であることを証明する方法(negative certification)が存在する。
複合木材製品規制
■ 米国内で販売、供給、販売促進、製造、輸入される複合木材製品は、TSCA Title VI適合と表示されなければならない。これらの製品には、広葉樹合板、中密度繊維板、パーティクルボード、およびこれらの製品を含む家庭用品やその他の完成品(finished goods)が含まれる。自主的合意基準、第三者認証制度など要件遵守保証のための制度が導入されている。
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