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EU|EU理事会、積極的政策の確保に向けた適切な最低所得に関する勧告を採択

物価水準の動向を考慮した最低補償制度の確立へ

2023年1月30日、EU理事会は、積極的政策の確保に向けた適切な最低所得に関する勧告を採択しました。同勧告では、加盟国が最低所得制度を近代化し、より効果的に人々を貧困から救い出すと共に、働ける人々の労働市場統合を促進する方法を定めています。

また、同勧告は、2022年9月に欧州委員会が提示した提案に続くものであり、適切な所得支援を推進することにより、貧困と社会的排除と闘い、高いレベルの雇用を追求することを目的としています。

背景、経緯

本勧告は、社会保障制度における十分な資源と社会的支援に関する共通基準に関するEU理事会勧告92/441/EECを基礎としており、労働市場から排除された人々の積極的な取り込みに関する欧州委員会勧告2008/867/ECを補完するものです。

2020年10月9日の結論において、EU理事会は、COVID-19の大流行とそれ以降における貧困と社会的排除と闘うために、最低所得補償を強化するよう求めました。

勧告の提案は、2022年10月7日に欧州委員会から社会問題作業部会へ提出され、作業部会の審査後、議長国チェコのもとで妥協案が合意されました。法律用語の改定に必要な時間を要し、正式な採択を行うことができなかったため、2022年12月8日にEPSCO理事会で、テキストに関する政治合意がなされました。

EPSCO理事会:EU理事会の10のサブディビジョンの一つで、雇用、社会政策、健康、消費者問題を扱う会議体

勧告の概要

本理事会勧告は、貧困と社会的排除と闘い、最低所得による適切な所得支援、十分な資源を持たない人々のための有効かつ不可欠なサービスへのアクセス、そして働ける人々の労働市場への統合を促進することによって、高いレベルの雇用を追求することを目的としています。

すべての加盟国は、社会的セーフティネットを導入していますが、それを利用しやすく、適切なものにするための進歩は一様ではありません。

したがって、EU理事会は、加盟国が、最低所得給付金やその他の付随する金銭給付、現物給付を通じた適切な所得支援を組み合わせ、有効かつ不可欠なサービスへのアクセスを提供することにより、強固な社会的セーフティネットを提供し、必要に応じて強化するよう勧告するとしています。

加盟国は、国内法に従い、関係する利害関係者を巻き込み、透明で強固な方法論を通じて、全体的な収入源、世帯の特定のニーズと不利な状況、低賃金労働者や最低賃金労働者の収入、生活水準と購買力、さらには物価水準の動向を考慮して最低所得の水準を設定することになります。

また、加盟国は、女性、若年成人、障害者の所得補償と経済的自立を促進する観点から、世帯の個々の構成員に最低所得を提供し、財政の持続可能性を守りながら2030年までに所得支援の適切なレベルを達成するために最低所得の水準を定期的に見直し、適切な水準を調整する必要があるとしています。

これにより、経済が低迷している時でも、最低所得の設計における柔軟性は、社会的な悪影響を緩和し、経済の安定化のために重要な役割を果たすことが可能になります。

また、最低所得は、貧困と排除から抜け出すための戦略における重要な要素であり、経済危機の時代において、持続可能で包括的な回復を支援することにも貢献することになります。

強固な社会的セーフティネットは、労働市場から最も遠い人々の社会的、健康的成果を改善するだけでなく、EUに持続的な社会的、経済的利益をもたらし、より公平で結束力のある、弾力的な社会を実現するものとしています。

過去10年の進展にも関わらず、2021年には、9,540万人以上が依然として貧困や社会的排除のリスクにさらされており、そのリスクは女性にとってより高いものとなっています。

COVID-19のパンデミックによる封じ込め措置は、特に医療と教育へのアクセスの面で、女性や不利なグループに不均衡に影響を及ぼしました。

また、ロシアのウクライナに対する不当かつ違法な侵略戦争は、エネルギー価格の急上昇とその後のインフレを引き起こし、低・中所得世帯にさらなる影響を与えました。

最低所得は、それを必要とする世帯が、請求書を支払い、尊厳ある生活を送るために、一定の所得水準までのギャップを埋めるのを助ける現金給付となります。

現金給付は、経済が低迷している時には特に重要であり、最も必要としている人々の家計所得の落ち込みを緩和し、それによって持続可能で包括的な成長に貢献することができます。

同勧告は、加盟国に対して、その最低所得制度が貧困と闘い、社会及び労働市場への積極的な参加を促進する上で効果的であることを保証する方法について、明確な指針を提供するものです。加盟国には、以下のことが推奨されています。

■ 所得維持の妥当性を向上させる。
■ 最低所得の適用範囲と利用率を向上させる。
■ 包括的な労働市場へのアクセスを改善する。
■ 必要不可欠なサービスへのアクセスを改善する。
■ 個人に合わせた支援の促進。
■ EU、国、地域、地方レベルでの社会的セーフティネットのガバナンスの有効性と、監視・報告メカニズムの改善。
■ EUにおける適切な最低賃金。

EUの労働者が十分な最低賃金を得られるようにすることは、適切な労働、生活条件を保証し、「欧州社会権の柱」第6の原則が定める公正で強靭な経済、社会を構築するために不可欠です。適切な最低賃金によるものを含め、より良い労働、生活条件は、EUの労働者と企業の双方に利益をもたらします。

適切な最低賃金は、公正な競争の確保、生産性の向上、経済的、社会的進歩の促進に寄与します。

最低賃金補償に関する指令案の概要(参考)

EU理事会の勧告に先立ち、2020年10月28日に提案されていた最低賃金補償に関する指令案については、2022年10月4日にEU理事会で採択されています。同指令案では、各加盟国での最低賃金の水準を直接的に設定するものではなく、あくまでも客観的な指標に基づく十分な水準の最低賃金の設定枠組みを規定しています。


以下に同指令案の概要を記載します。

すべてのEU加盟国において、最低賃金補償は、立法規定(法定最低賃金)及び/または労働協約によって存在するにも関わらず、大多数の加盟国において、最低賃金の妥当性は不十分であり、また、最低賃金補償の対象には隙間があります。

これを踏まえて、EU理事会は2022年10月4日に適切な最低賃金に関する指令案を採択しました。本指令案は、最低賃金の妥当性を向上させ、労働者が最低賃金補償を受けられるようにするための枠組みを確立すると共に、すべての加盟国において、賃金に関する団体交渉を促進し、各国で確立されている最低賃金補償の執行と監視を改善することを目的としています。

また、法定最低賃金を定めている加盟国においては、この提案の狙いは以下の通りです。

■ 法定最低賃金が適切な水準で設定されるための条件を整備すること。
■ 最低賃金設定のための明確かつ安定した基準、妥当性の評価の指針となる指標となる基準値の設定。
■ 最低賃金の定期的かつ適時な更新、管轄当局に助言する協議機関の設立。
■ 最低賃金の変動及び控除の使用を最小限に制限すること。
■ 法定最低賃金の設定と更新にソーシャルパートナーが効果的に関与することを保証すること。

提案された指令案は、加盟国が最低賃金補償に関するデータを欧州委員会に毎年報告することを導入するものであり、補完性の原則を完全に尊重しています。本指令案は、労働条件に関するEU機能条約(TFEU)153条(1)(b)に基づいており、この結果を踏まえ、加盟国は2年以内に同指令案を国内法に導入する必要があります。

欧州委員会は、EU機能条約(TFEU)154条に基づき、ソーシャルパートナー、理事会の諮問委員会を通じた加盟国、欧州経済社会委員会とも対象を絞った協議も行い、影響評価(エグゼクティブサマリー付き)という分析作業でも本提案を支援してきました。

参考情報

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