2026年08月25日、米国連邦官報は、2026年08月20日に署名された国家安全保障大統領覚書第17号(NSPM-17)「国家宇宙輸送政策(The National Space Transportation Policy)」を掲載しました(91 FR 54929、文書番号2026-17372、全6ページ)。本覚書は、2013年11月21日付の大統領政策指令26(PPD-26)「国家宇宙輸送政策」を廃止し、これに置き換わるものであり、米国の宇宙輸送に関する政策の枠組みを13年ぶりに全面的に改めるものです。
本覚書が掲げる中核的な数値目標は、2030年までに年間1,000回を超える打上げおよび再突入を支えるだけの宇宙輸送能力を実現することです。この目標を達成するため、覚書は連邦の射場(レンジ)を商業利用者に対して公平かつ透明性のある条件で開放すること、施設の許認可および環境レビューを迅速化すること、商業および連邦の打上げ・再突入・回収・軌道上活動に必要な周波数(スペクトラム)へのアクセスを確保すること、そして米国政府の宇宙輸送需要の充足にあたって商業サービスを優先することなどを、関係省庁に対して指示しています。さらに、内務長官に90日以内、国務長官・商務長官に120日以内、戦争長官・運輸長官・商務長官・FCC議長・国土安全保障長官に180日以内、商務長官に240日以内といった具体的な期限を付した作業が割り当てられており、今後1年程度のうちに基準の策定や立地の特定、輸出管理の更新といった実務上の成果物が順次示される見込みです。
本覚書は政策文書であり、それ自体が民間事業者に直接の義務を課すものではありません。もっとも、連邦射場の利用条件、許認可の処理、周波数の確保、政府調達の方針という、商業宇宙輸送事業の採算性と実行可能性を左右する要素に幅広く踏み込む内容であるため、商業打上げ事業者、宇宙港の運営者・開発者、輸送機やペイロードの製造事業者、さらには宇宙輸送関連の機器・技術を輸出する事業者にとって、今後の事業環境を規定する基礎的な文書となります。
1. 覚書の位置付けと構成
1-1. PPD-26の廃止と置換
本覚書の第8節は廃止条項であり、2013年11月21日付のPPD-26を廃止し、本覚書がこれに置き換わることを定めています。PPD-26はオバマ政権期に策定された国家宇宙輸送政策であり、当時は政府の打上げ需要と国家安全保障上の打上げ能力の維持が主眼に置かれていました。本覚書は、その後の商業打上げ市場の拡大を前提に、商業サービスの活用と打上げ頻度の飛躍的な引上げに軸足を移しています。
1-2. 覚書の構成(目次)
本覚書は次の9つの節から構成されています。
- 第1節 国家宇宙輸送目標
- 第2節 宇宙打上げおよび再突入インフラ
- 第3節 宇宙輸送産業基盤
- 第4節 宇宙輸送市場アクセス
- 第5節 国際協力
- 第6節 米国政府の宇宙輸送
- 第7節 省庁間調整
- 第8節 廃止条項
- 第9節 一般規定
インフラ(第2節)、産業基盤(第3節)、市場アクセス(第4節)という3つの節が、民間事業者に最も関係の深い部分です。
2. 政策目標
本覚書は、国家宇宙輸送目標として「2030年までに年間1,000回以上の打上げおよび再突入を支援する宇宙輸送能力の成長」を掲げています。参考として、連邦航空局が2026年08月25日に公表した関連の情報提供要請では、2025年の世界全体の打上げ329回のうち217回が米国発であったこと、その83%がケープカナベラル、ケネディ宇宙センター、ヴァンデンバーグの3か所の連邦施設に集中していることが示されています。年間1,000回超という目標は、現在の米国の打上げ回数を数倍に引き上げることを意味し、既存の連邦射場だけでは対応が難しいという前提に立っています。
3. 期限が付された各省庁への指示
本覚書は、関係省庁に対して期限付きの作業を割り当てています。「誰が、いつまでに、何を行うのか」は次のとおりです。
3-1. 90日以内
- 内務長官:地元および業界の関係者との協議のうえ、連邦土地における再突入サイトの指定候補地を特定する。
3-2. 120日以内
- 国務長官および商務長官:宇宙輸送の市場アクセスに関する輸出政策および輸出管理を更新する。
3-3. 180日以内
- 戦争長官(NASA長官と協調):連邦射場のスケジューリング基準を策定・公表し、射場スケジュールを定期的に公表する。あわせて、迅速かつ即応的な宇宙アクセスに対する規制上・技術上の障壁を評価する。
- 運輸長官:追加の打上げ施設の潜在的立地を特定し、空域および交通管制の現代化への統合を進め、優先空域を指定する。
- 商務長官およびFCC議長:スペクトラム・アクセスの確保に関して報告する(以後、2年ごとに報告)。
- 戦争長官および国土安全保障長官:連邦不動産における宇宙打上げインフラの保護方策について報告する。
3-4. 240日以内
- 商務長官:指定された連邦土地の再突入サイトについて開発計画を策定する。
4. 事業者に関係する主要な方針
4-1. 打上げ・再突入インフラ(第2節)
連邦の射場に関して、本覚書は次の方針を示しています。
- 商業ユーザーのための連邦打上げ・再突入サイトへのアクセスを促進すること。政府による利用と民間ユーザーによる利用の双方について、透明な取扱いを規定するとされています。
- 共通サービス、コモディティおよびインフラについて、公平かつ透明な費用回収政策を策定すること。射場の利用料の算定根拠が明確化される方向です。
- 射場スケジューリング基準を通じて、射場資源の効率的な利用を最大化すること。
- リース、商業投資および公民連携(PPP)により、連邦資産の資本改善を円滑化すること。
- 施設の許認可および環境レビューについては、大統領令14335に準拠して迅速化を図ること。
射場スケジュールの定期公表とスケジューリング基準の策定は、打上げ事業者にとって射場の空き状況の予見可能性を高めるものであり、打上げ計画の立案に直接影響します。
4-2. 市場アクセスと輸出管理(第4節)
国務長官および商務長官に対し、120日以内に宇宙輸送の市場アクセスに関する輸出政策および輸出管理を更新することが指示されています。宇宙輸送機やその構成品は、国際武器取引規則(ITAR)および輸出管理規則(EAR)の対象となる場合があり、輸出許可の要否や手続が事業展開の制約となってきました。今回の更新の具体的な内容は明らかにされていませんが、宇宙輸送関連の機器・技術・役務を国外に提供する事業者は、2026年12月頃までに示される見込みの更新内容を確認する必要があります。
4-3. 政府調達(第6節)
米国政府自身の宇宙輸送については、次の方針が示されています。
- 「米国政府の宇宙ペイロードは米国製造の輸送機により打上げまたは輸送される」ことが原則とされます(例外あり)。
- 米国政府の需要充足にあたっては、商業宇宙輸送サービスを優先すると明記されています。
- 相乗り(ライドシェア)およびホストペイロードの機会を最大化することが指示されています。
商業サービスの優先は、米国の打上げ事業者にとって政府需要の獲得機会の拡大を意味します。他方、米国製造の輸送機を原則とする方針は、非米国系の輸送手段を用いる事業者にとって制約となり得ます。
4-4. 周波数(スペクトラム)
商務長官およびFCC議長は、商業および連邦の宇宙打上げ、再突入、回収ならびに軌道上活動に対する「信頼性のあるスペクトラム・アクセス」を確保するとされ、180日以内の報告と、その後2年ごとの継続的な報告が求められています。打上げ運用に必要なテレメトリ・追跡・指令の周波数は、他の無線利用との調整が必要な希少資源であり、打上げ頻度の増加に伴って逼迫が予想される分野です。
4-5. 月・火星関連
- 月面輸送アーキテクチャの商業化促進
- 火星表面への商業ロボティクスアクセスの探索
地球周回軌道への輸送にとどまらず、深宇宙輸送についても商業サービスの活用を進める方針が示されています。
5. 関連する動き
本覚書の公表と同日の2026年08月25日、米国連邦航空局は「新たな宇宙港の立地選定および重要な宇宙打上げ回廊における優先空域の使用」に関する情報提供要請(RFI、ドケット番号FAA-2026-9736)を公表し、意見募集を開始しました。これは本覚書が運輸長官に指示した「追加の打上げ施設の潜在的立地の特定」および「優先空域の指定」を実施するための最初の手続です。意見提出期限は2026年10月26日であり、打上げ事業者、宇宙港の運営者、航空事業者にとって、制度設計に意見を反映させる機会となります。同RFIでは、2035年までに年間1万件のFAA許認可による打上げおよび再突入を見込むという、本覚書の2030年目標のさらに先の見通しが示されています。
6. 事業者が取るべき対応
本覚書の段階で直ちに履行すべき義務が生じるわけではありませんが、次のような準備が考えられます。
- 打上げ事業者・宇宙港運営者:180日以内に公表される見込みの連邦射場スケジューリング基準および費用回収政策の内容を確認し、打上げ計画とコスト見積りへの影響を評価すること。連邦航空局のRFI(期限2026年10月26日)への意見提出を検討すること。
- 輸送機・機器の製造事業者:120日以内に更新される見込みの輸出政策・輸出管理の内容を確認し、既存の輸出許可や技術移転契約への影響を点検すること。
- 政府調達への参加を検討する事業者:商業サービス優先および米国製造原則の方針を踏まえ、調達要件への適合性を確認すること。
- 航空事業者・空域利用者:優先空域の指定が航路運用に与える影響を評価し、上記RFIへの意見提出を検討すること。
- 共通:本覚書に基づく各省庁の報告・基準の公表時期(2026年11月頃から2027年04月頃)を把握し、公表され次第、内容を確認する体制を整えること。
参考情報
Federal Register(連邦官報)「The National Space Transportation Policy」(National Security Presidential Memorandum 17、91 FR 54929、文書番号2026-17372)
Federal Register(連邦官報)「Siting New Spaceports and Use of Priority Airspace for Critical Space Launch Corridors」(91 FR 54909、文書番号2026-17290)
注目情報一覧
新着商品情報一覧
調査相談はこちら
概要調査、詳細調査、比較調査、個別の和訳、定期報告調査、年間コンサルなど
様々な調査に柔軟に対応可能でございます。
- ●●の詳細調査/定期報告調査
- ●●の他国(複数)における規制状況調査
- 細かな質問への適宜対応が可能な年間相談サービス
- 世界複数ヵ国における●●の比較調査 など